あなたと私の恋の行方
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残念なパーティーが終わってホッとしていたら、週が明けてすぐに新川課長から指令が出た。
土曜日にゆったりスパで寛いでいたら、アイデアが湧いたらしい。
「秋の企画を出したいと思うの」
アジアンテイストのスパにいたら、大手スーパーチェーンとタイアップして全国規模で展開する企画を思いついたらしい。
いつものことだが、新川課長の指示による仕事は譲り合う、いや、課内で押し付け合うことになった。
「じゃ、僕がやります。いいよね西下さん」
「は、はい」
今回、課長の提案に対して資料を集めてデータの裏付けを取るのは私と三年先輩の小谷慎二さんに決まった。
小谷さんが申し出てくれたので、皆がホッとした表情になった。
小谷さんはメガネがよく似合う知的でクールな雰囲気を漂わせている人だ。
仕事はめちゃくちゃできる人だけど、ただ愛想がない。というか、むしろゼロに等しい。
あの美人の新川課長にだって、にこりともしないのだ。
普段から私は小谷さんから声がかかることが多かったから、お互いのやり方がよくわかる。
今回もあっという間にアジアの食関連の資料が揃った。
若いの間で注目を集めている食べ物や、主婦に人気の食材をリストアップして、その中からわが社の製品と相性のいいものを選んで検討する。
なにしろ新川課長は資料が揃う前に部長のアポを取ってしまうことだってある人だ。
小谷さんほど優秀な人材がいるから課長の希望が通っているなんてわかってないのかもしれない。
お昼を抜くこともあったけど、なんとか課長との約束の日までに資料が完成した。
「じゃあ、ふたりも一緒に来てちょうだい」
担当していた小谷さんと私もお供をすることになった。
恐らくふたりに発言権はないだろうけど、突発的な質問や不都合があった時にサポートする役目だ。
「わかりました」
そう答えて、ハイヒールで闊歩する課長のうしろを付いていく。
少し後ろを小谷さんはのんびり歩いているようだ。
廊下ですれ違う人からの視線が痛い。クイーンのそばに侍女がいるくらいに見えているんだろう。
(まるで見世物みたい)
心の中で呟いていたら、新川課長の華やいだ声が聞こえてきた。
「佐野部長!」
いつも以上に甘~い声だ。
「新川君か」
それに対する佐野部長の反応は、あっさりしたものだった。
逆にウフフッと笑う課長の微笑みは、美人だけにものすごく色っぽい。
「新しい企画を提出しようと思って」
「そう」
新川課長の艶やかさに惑わされることなく、クールに答えている。
冷たくあしらわれたからか、課長は憮然とした顔をした。
そばにいると細かなことにまで気が付くからいたたまれない。
「小谷、同窓会の件で連絡するからな」
そのまま立ち去るのかと思ったら、なんと佐野部長が小谷さんを呼び止めた。
無表情のまま、黙って小谷さんは頷いている。部長に失礼じゃないのかなと焦ったくらいだ。
不自然にならないように、私も去り際に頭を下げた。
まさかパーティーで会った私と、会社の廊下ですれ違った地味な社員が同一人物だとは佐野部長も気が付かないだろう。