あなたと私の恋の行方
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その日の終業後、柊一郎は先に銀座の路地裏にあるバーに着いていた。
カウンターの奥に座って、すでにグラスを傾けている。
「お疲れさまです」
仕事が終わってから、急いで走ってきたのだろう。
小谷が少し息を弾ませて、柊一郎が座っているほの暗い奥の席にやってきた。
「お疲れ。急に悪かったな」
「いえ、そろそろご報告したいと思っていましたので」
小谷は柊一郎の隣のカウンターチェアーに座った。
「なに飲む?」
「部長と同じもので」
顔なじみのウエイターがそのひと言で理解したように頷いた。
「君もバーボンよりスコッチ派だったな」
これだけは柊一郎と好みが一致する。
「結論はどうだ?」
「やはり噂で聞いていた通りです」
柊一郎の質問に、小谷がすぐに答えた。
小谷の前に、柊一郎と同じマッカランがストレートで置かれた。
「そうか。一年前、君を新川の下に付けてよかったよ」
「最初、佐野先輩からお聞きした時はまさかと思ってました」
少し前から、柊一郎と小谷は新川の動向を観察していた。
ここ数年、ふたりと同じ大学の出身で優秀だと思われていた社員が何人か立て続けに辞めていた。
いずれも新川課長の部下になってからだ。
表向きは転職とか寿退社になっているが、不審に思った柊一郎が退職した後輩からなんとか聞き出したら、新川課長のパワハラが浮かび上がってきたのだ。
柊一郎はその力を使って、一年前の春に小谷を新川の下に配属した。
若手女性社員の中でも出世頭と言われている新川がパワハラしているとは思えなかった。
だから小谷に新川の下で働いてもらって、正確な情報を得たいと思ったのだ。
柊一郎が目をかけた後輩社員が、精神的に追い詰められて辞めているとしたら看過できない。
小谷の定期報告では、新川の下についてみると仕事の要求は凄まじいし時間の括りもキツイ。
言われた時間までに完成しなかったらキレるわ罵るわ、口が立つだけ始末が悪い。
実際のところ柊一郎が実力を認めている小谷でさえも、新川の要求に答えるのはなかなか難しいという。
「それで新川が仕事ができるって評判がいいのはおかしいな」
小谷の話を聞いた佐野が呟いた。これまで新川は多くの仕事で評価を得ているのだ。
「それは、西下由香が優秀だからですよ」
「西下? 誰だったかな?」
「ほら、今日も課長の後ろをチンマリしたのが歩いていたでしょ」
「ああ……思い出した。あのマシュマロみたいなやつ」