郡くんと甘いビターチョコレート
__何の変哲もない、とある平日。登校中の電車。
満員電車で座れないのは日常だけど、その日はなぜだかいつにも増して人が多い気がしていて。
伸びる魔の手には感覚がするまで気が付かなかった。
本格的に夏が始まる前、嫌な暑さと共に私に襲い掛かってきたその感覚に、私は動けずに、声すら出せなくて。
やだ……っ! やめて……っ!!
声にならず心の中で叫ぶその声が周りに届くはずもなく、ぎゅっと目を瞑って、経験したことのない恐怖に涙を溜めることしかできなかった。
怖くて逃げたくて、助けてほしいのに体が動かなくてどうにもならなくて、自分の弱さを痛感したその時に___私の世界が、大きく変わった。
「……おじさん、その手、なに?」