開けずの手紙ー完全版ー/長編呪い系ホラー【完結】
その5


「私が合図したら、彼女の体に手を添えて、美咲さんに語りかけてください。くれぐれも感情は抑えて…、いいですね?」

「承知しました」

”ついにだわ!お父さん…、私に力を貸して。三浦美咲を鬼島則人の呪いから断ちきるために…”

野坂奈緒子は大きく深呼吸をして、国上の指示を待った。

「国上さん、こっちはOKだ」

「うむ…。鷹山さん、ケースの中で煙が立ったりも炎が上がったりしたら、申し合わせ通り、速やかに濃塩水を密閉コックから注入願いますよ!まかり間違っても、外部に放出させないように。おそらく、カプセルが最初に反応します。頼みますよ…」

「かしこまりました…」

国上はパソコンのスカイプ画面から、ベッドの上の奈緒子と美咲に目を移した。


***


「うーっ、うーん…」

ベッドの上で胡坐をかいて、壁に寄りかかっている状態の美咲は、目をつぶった額にしわを作った表情で、首を前後左右へ小刻みに動かしている‥。

「奈緒子さん、始めて下さい!」

奈緒子は国上に目で合図して頷くと、美咲に向きかえり、言葉を発した。

「…美咲ちゃん、何か見えるのかな?」

「うーん、うー」

美咲はさっそく反応を示したが、言葉としての答えは返って来なかった。

「奈緒子さん、語りかける間隔にリズム感を持たせて、繰り返してください」

「あっ…、はい…」

国上はすでに、右手の中にある念珠での祈祷を始めていた。


***


「…どうなのかな?美咲ちゃんの目に映ってるものは何かな?」

「…こわい」

それは、十秒ちょっと間を置いた後だった。

「国上さん…!」

思わず奈緒子は後ろの国上を振り返った。

「落ち着くんだ、奈緒子さん。状況を少しづつ聞き出して。あくまで、穏やかにささやきかけるんですよ!」

「ええ‥。ああ…、美咲ちゃん、恐がらなくていいわ。先生はあなたのそばにいるから。それで、何がこわいのかな?」

「…大きい木。柳みたいな…。怖い…」

「!!!」

ついに夢の中の三浦美咲の口から、くびれ柳らしき形容が飛び出した…。





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