開けずの手紙ー完全版ー/長編呪い系ホラー【完結】
その9


「ナムソカナンザラ、ハマラニハラマ…」

美咲の部屋は、騒然かつ緊迫した異様な空気で覆い尽くされていた。
もう3人とも額からは汗だだらだらと滴り落ちている。

「美咲ちゃん、怖がっちゃダメ!私も一緒だから。破るのよ…、そんな紙切れ、破り捨てるのよ!」

「野坂先生…、手が動かないのよ。アイツ、ヨメって…。その声で私、鉛のようになるの…。鉛に吸いこまれてく‥。先生が破ってよ!」

目を閉じた美咲は絶叫していた。

おそらく、1階の両親が寝ている部屋まで聞こえているだろう。
すでにこの部屋の外で手を合わせ、祈っているかもしれない…。

奈緒子は瞬間的にそんな想いが脳裏に浮かび、今まさに正念場を迎えた自分の責任の重さをズンと感じ取っていた。


***


「奈緒子さん、彼女を抱きしめてやって。ヘッドギアに電流を流すから、そのショック時に手紙を破らせるんだ。いや、あなたが一緒にだ!」

「国上さん…!」

「作業堂は負気同士の隔絶共振がマックスを示してる。くびれ柳に植え付けた鬼島のエネルギーとは分断できてるんだ。もう美咲さんのひと超えにかかってる。頑張ってくれ」

奈緒子は意を決して、目の前の美咲を両手で抱きかかえた。

「私は一緒よ。わかるでしょ?」

「先生…、私読んじゃう。読まされるよー」

「国上さん、5つ、カウントダウンでお願いします!」

「わかった。ゼロの直前、電流を入れる」

奈緒子は下唇を噛みながら、大きく頷いた。


***


「読ませるもんですか!美咲ちゃん…、5つ数えるから。カウントダウンで。先生がゼロって言ったその時、あなたの手にある紙に私の手も届くのよ。ここにいて、ずっと念じてくれていた国上先生が魔法をかけてくれるの。でも、その瞬間、一回だけ。私と一緒にできるわね?」

「野坂先生…」

「部屋の外にはね、お父さんとお母さんも祈るっていてくれてるわ」

「やります!アイツの声、だんだん重くなって来てるから、先生、早く!」

「ええ。じゃあ、5…、4…、3…」

奈緒子は一旦、国上を振り返って、会釈すると、カウントダウンを始めた。

「…2、1…」

”カチャ!ビビッ…”

国上は、奈緒子の口からゼロが飛ぶ出す寸前に電流を流した。

「ゼロ!さー、破れ―!!そんなもん!」

「ぎゃあー!!」

美咲はベッドから飛び上がって、絶叫した。
その彼女を奈緒子は強く抱きとどめている。
渾身の想いの元に…。






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