開けずの手紙ー完全版ー/長編呪い系ホラー【完結】
その10


”二つの”美咲の前には、驚くべき光景が訪れていた。

まず、鬼島の顔と上半身の一部は、くびれ柳の木の中で歪みくねらせながら、どくどくという無音の音感をなして、闇の穴へと消え、同化した。
すると…、間髪入れず、今度は柳は”メキメキメキ…”と、音もなく根元から揺れていた。
そして…。

ついにくびれ柳の大木が根元から、無音の断末魔をあげ、まるで髪の長い大女が貧血で前のめりに倒れ落ちるような動作で、抜根、倒木したのだ。

ほの暗いなんとも浮遊感を漂わすその地面には、今しがた倒れた”大女のアタマ”がめり込んでいた。

かくて、美咲の手の中の”紙きれ”は、彼女がその全身を痺れ貫かれた一瞬の間を以って、八つ裂きの刑に処せられるのだった。


***


”グラグラグラ…”

「何ともすごい、あの重い密閉ケースが底面から揺れさせられてる」

まさに、作業堂の鷹山は、自分の足元も地響きさながらの様相を手いるるにいた理、背筋を凍らせていた。

”このままじゃ、破裂するかもしれん。最後までこの目に収めたいがが、仕方ない。退避しよう”

ついに鷹山は、RC造の作業堂から外に退避した。


***


「美咲ちゃん!美咲ちゃん!手紙、破ったの?しっかりして…」

電流を名がされたショックで、奈緒子の腕の中で気を失った美咲は、ぐったりとしていた。

「奈緒子さん、彼女を仰向けで寝かせよう」

「はい…」

二人は汗ばんだ手で、同じく全身汗びっしょりとなっている、スウェット姿の美咲をゆっくりベッドへ寝かせた。
その後、国上は彼女の頭からヘッドギアを取り外した。

「彼女は大丈夫だ。目が覚めるまでそっとしておこう」

「ええ…。でも、結局どうなったんでしょうか?」

「私の念じ込みが跳ね返ってこないんです。彼女の意識が戻ったら”確認”はしますが、くびれ柳は鬼島の施した機能を発揮できない状態に至らしめたと思う…」

「では、彼女、百夜殺しの呪いはかけられないで戻れたってこと何ですね!」

奈緒子は国上の正面で、思わず前のめりになって詰問調で問いかけた。




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