開けずの手紙ー完全版ー/長編呪い系ホラー【完結】
刻まれた文字たち
刻まれた文字たち
「!!!」
丸島は、我が両の手がぎゅっと握っていたその中身を広げると、仰天した。
”手紙!夢の中で柳の下を掘り当てたケースかの中からとり出した、二枚の手紙じゃないか!”
彼は震える手を無視して、クシャクシャに丸まった二枚を乱暴に広げた。
”白紙だ!…なんでだ!”
そうであった…。
夢(?)の中にいた”自分の一人”は、確かにこの二枚に埋まっていた文字全部を漏らさず”読まされた”…。
そしてその文面を知り、絶望と後悔の絶叫を音のない空間にこだまさせていたのだ。
”あの恐ろしい文面…。なんと言うことだ…!!あの二枚は、オレが鬼島に返事を送った後の空白の二年分だったんだ…。ヤツは意図的にその二回分をオレに送らず、くびれ柳の根元に埋めた。呪いのタイムカプセルとして…。本来は二年半前とその一年後に、オレの目に入るべき文言が夢の中のオレに読ませたそれさ。アハハ…、あの野郎、わざと自分の思いを知らせずに死んじまって、その後、導いたんだ。あの夢の中で…。あれは鬼島が俺を呼び寄せるための夢だったんだー!!”
丸島はしばし、布団の中に半身を起こした体勢のまま、混乱した頭を叩いていた。
既にシワくちゃになっている”白紙”二枚を手にして…。
***
”ガラガラガラ…”
「あら、目が覚めたみたいね。あなた、随分ぐっり寝てわよ。リカが起こしちゃかわいそうだからって、そっと起きてたわ、ふふ‥。ああ、もう、お食事の支度できるから…」
「ああ…。…アカリ、昨夜はオレ、夢にうなされてたり大声上げるとかなかったか?」
「うん。私は気が付かなかったわ。夜、目を覚ますこともなかったし。リカもおじいちゃんの声で起きることはなかったって言ってたわよ」
「そうか…」
この時点で、もはや丸島には”ほぼすべて”が”理解”できていたのだ。
それはあまりに絶望的な全容だった…。
***
だが、彼はふと思いたった。
”こうしてはいられない!この二枚から消えた文字を頭に残ってるうちに書き起こしておかないと…!”
丸島は勢いよく布団から飛び出ると、パジャマ姿のままデスクに向かい、パソコンを起動させた。
そして約10分強かけて、消えた二枚の鬼島が綴ったであろう文字をワープロに復刻した。
”一字一句忘れていない。そうさ…、鬼島はオレの脳裏に刻み込んだんだ。この、身の毛がよだつほど恐ろしいメッセージを…”
彼は作業を終えると、大きなため息をついて口を真一文字に閉じ、何やら思案した。
そして数十秒後…、”その決断”に達するのだった。
”鬼島の目的はわかった。それなら、それを受けた上で、オレの採れる最善策…。これしかないだろう…。胸が抉られる思いだが…”
それは壮絶な決断だった。
そして、鬼島による”呼び寄せ夢”によって、この二枚の手紙を手にした件は、和田と鷹山には告げないことにしたのだ。
無論、アカリや奈緒子にも‥。
かくして、丸島の孤独な生き地獄は幕を切って落とすのだった…。
***
「ハハハ…。昨日、和田が言ったことは本当さ。奈緒子、幼いころは和田をつかまえて、”お家から帰らないで。自分のお父さんになって”って、泣いてせがんだでさ。ヤツの腕を離さなかったよ。お母さんは苦笑いしてたが、オレはまだ若かったし、勝手にしろって二階に上がってふて腐れていたな(苦笑)」
「…」
昨夜、和田が帰り際、「奈緒子ちゃん、今日はオレの腕引っ張ってくれないのかい?。ちょっとさびしいなあ‥」とからかわれたことで、丸島家の皆は妙にニヤニヤ笑っていた。
その理由が今ひとつわからなかった奈緒子は、母親のアカリに尋ねたのだが、「明日、電車の中でお父さんに聞いてみたら」と”返されて”いた。
そこで、二人で通学途中の電車の中で、”本日の話題”となったのだ。
”そう言われれば…、そんなことがあったかなって記憶はぼんやりかな…。しかも、かなり本気だったような‥”
奈緒子は、幼少期の自分が父に抱く拒絶感の深さをそのままを著わしていたんだろうと、素直に結論付けられた。
そして、そのことでどんなにかこの父親をいたたまれない気持ちにさせたことかと、今の奈緒子には自分でも驚くほどすんなり受け入れることができたのだ。
”お父さんにとってはリカと一緒で、私は、目に入れても痛くない一人娘だったはずだ。お父さん…”
奈緒子は知らず知らずのうちに、瞳を潤わしていた。
そして自分でそれに気づくと、ポンと俯いてしまった。
「どうした、奈緒子…」
父はやや躊躇いながらも、ぎこちなく娘の顔を覗き込んで、そう囁いた。
彼女にとって、この時の父の声かけはまさに包み込まれるような、なぜか特別な響きを感じていた…。
「!!!」
丸島は、我が両の手がぎゅっと握っていたその中身を広げると、仰天した。
”手紙!夢の中で柳の下を掘り当てたケースかの中からとり出した、二枚の手紙じゃないか!”
彼は震える手を無視して、クシャクシャに丸まった二枚を乱暴に広げた。
”白紙だ!…なんでだ!”
そうであった…。
夢(?)の中にいた”自分の一人”は、確かにこの二枚に埋まっていた文字全部を漏らさず”読まされた”…。
そしてその文面を知り、絶望と後悔の絶叫を音のない空間にこだまさせていたのだ。
”あの恐ろしい文面…。なんと言うことだ…!!あの二枚は、オレが鬼島に返事を送った後の空白の二年分だったんだ…。ヤツは意図的にその二回分をオレに送らず、くびれ柳の根元に埋めた。呪いのタイムカプセルとして…。本来は二年半前とその一年後に、オレの目に入るべき文言が夢の中のオレに読ませたそれさ。アハハ…、あの野郎、わざと自分の思いを知らせずに死んじまって、その後、導いたんだ。あの夢の中で…。あれは鬼島が俺を呼び寄せるための夢だったんだー!!”
丸島はしばし、布団の中に半身を起こした体勢のまま、混乱した頭を叩いていた。
既にシワくちゃになっている”白紙”二枚を手にして…。
***
”ガラガラガラ…”
「あら、目が覚めたみたいね。あなた、随分ぐっり寝てわよ。リカが起こしちゃかわいそうだからって、そっと起きてたわ、ふふ‥。ああ、もう、お食事の支度できるから…」
「ああ…。…アカリ、昨夜はオレ、夢にうなされてたり大声上げるとかなかったか?」
「うん。私は気が付かなかったわ。夜、目を覚ますこともなかったし。リカもおじいちゃんの声で起きることはなかったって言ってたわよ」
「そうか…」
この時点で、もはや丸島には”ほぼすべて”が”理解”できていたのだ。
それはあまりに絶望的な全容だった…。
***
だが、彼はふと思いたった。
”こうしてはいられない!この二枚から消えた文字を頭に残ってるうちに書き起こしておかないと…!”
丸島は勢いよく布団から飛び出ると、パジャマ姿のままデスクに向かい、パソコンを起動させた。
そして約10分強かけて、消えた二枚の鬼島が綴ったであろう文字をワープロに復刻した。
”一字一句忘れていない。そうさ…、鬼島はオレの脳裏に刻み込んだんだ。この、身の毛がよだつほど恐ろしいメッセージを…”
彼は作業を終えると、大きなため息をついて口を真一文字に閉じ、何やら思案した。
そして数十秒後…、”その決断”に達するのだった。
”鬼島の目的はわかった。それなら、それを受けた上で、オレの採れる最善策…。これしかないだろう…。胸が抉られる思いだが…”
それは壮絶な決断だった。
そして、鬼島による”呼び寄せ夢”によって、この二枚の手紙を手にした件は、和田と鷹山には告げないことにしたのだ。
無論、アカリや奈緒子にも‥。
かくして、丸島の孤独な生き地獄は幕を切って落とすのだった…。
***
「ハハハ…。昨日、和田が言ったことは本当さ。奈緒子、幼いころは和田をつかまえて、”お家から帰らないで。自分のお父さんになって”って、泣いてせがんだでさ。ヤツの腕を離さなかったよ。お母さんは苦笑いしてたが、オレはまだ若かったし、勝手にしろって二階に上がってふて腐れていたな(苦笑)」
「…」
昨夜、和田が帰り際、「奈緒子ちゃん、今日はオレの腕引っ張ってくれないのかい?。ちょっとさびしいなあ‥」とからかわれたことで、丸島家の皆は妙にニヤニヤ笑っていた。
その理由が今ひとつわからなかった奈緒子は、母親のアカリに尋ねたのだが、「明日、電車の中でお父さんに聞いてみたら」と”返されて”いた。
そこで、二人で通学途中の電車の中で、”本日の話題”となったのだ。
”そう言われれば…、そんなことがあったかなって記憶はぼんやりかな…。しかも、かなり本気だったような‥”
奈緒子は、幼少期の自分が父に抱く拒絶感の深さをそのままを著わしていたんだろうと、素直に結論付けられた。
そして、そのことでどんなにかこの父親をいたたまれない気持ちにさせたことかと、今の奈緒子には自分でも驚くほどすんなり受け入れることができたのだ。
”お父さんにとってはリカと一緒で、私は、目に入れても痛くない一人娘だったはずだ。お父さん…”
奈緒子は知らず知らずのうちに、瞳を潤わしていた。
そして自分でそれに気づくと、ポンと俯いてしまった。
「どうした、奈緒子…」
父はやや躊躇いながらも、ぎこちなく娘の顔を覗き込んで、そう囁いた。
彼女にとって、この時の父の声かけはまさに包み込まれるような、なぜか特別な響きを感じていた…。