開けずの手紙ー完全版ー/長編呪い系ホラー【完結】
その6


「よし、準備は整った…」

奈緒子と会うことになっていた前日の夜、自宅の部屋でパソコンに向かっていた和田は作業を終え、プリントアウして手にした数枚のA4サイズのコピーに目を通した。
そして…。

”丸島…。どうやら鬼島の逆恨み相手は、お前だけではなかったようだ。ヤツの最終目的は、呪いのパンデミックを起こすことだったんだよ…”

和田はあの世の丸島に向かって、そう心の中で呟いていた。
その表情はやり切れない思いが滲み出ていたが、どこか怒りを帯びた闘志のようなものも発していた。


***


翌日、午後3時…。
野坂奈緒子と和田雅人は、奈緒子の実家に近い、都内某所の公園で会っていた。
噴水を正面にしたベンチに並んで腰を下ろし、まずは、しばし互いの近況を告げ合った。

「そうか…、リカちゃんの兄弟が今、お腹の中に…。それはおめでとう」

「ありがとうございます。和田さんのご家族もお元気そうで何よりです」

「はは…、オレももうすぐ定年だし、何しろ健康だけは気をつけるように心がけてますよ。…丸島にも定年後の老後を送らせてやりたかった…」

「和田さん…」

和田は思わず俯いて、両の拳をぎゅっと握りしめていた…。
そんな彼の父を思ってくれる胸中が透けて見える奈緒子は、和田に対していたたまれない気持ちが湧きあがっていた。


***


「…去年、父の葬儀の後、ここで和田さんとお話したことは今でもはっきりと覚えています。あの時の気持ちも変わってません」

俯いていた和田は、となりの奈緒子に顔を向けると、彼女の目をじっと見つめた。

「…」

「…あれ以来、私…、父の死とはずっと向き合っていこうと、そう心に決めたんです。そして、父が自ら命を断つ当日に”開けずの手紙”を送った。高校時代の同級生、水野さんが半年後も健在だったと知って、ひとつの決着を自分に中で着けました。でも…」

「奈緒子さん…、そのことは、お父さんもあの世で自己の行いに決着をつけたことになるんですよ。一身を投げ打って、鬼島から受けた呪いの連鎖に対してのけじめを全うさせた。ますは、そこは遂げられたんです」

「はい…」

二人は先ず、”そこ”を共通の認識で抑えていることを確認した。

”さあ、その後ととなる。この奈緒子さんには、ありのまま話そう
…”

かくて…、事実上、二人は新たな扉の向こうへと、その一歩を踏み出すこととなる…。




< 39 / 129 >

この作品をシェア

pagetop