隠れ御曹司の愛に絡めとられて
すくい上げた粥にフーフーと息を吹きかけ、口の中へと運ぶ。
優しい鶏スープの味が口いっぱいに広がり、とてもしあわせな味がする。
「……おいしい」
「ほんと? よかった」
私の前の席に座った彼がニコニコと見守る中、私はふたくち目、みくち目を口へと運ぶ。
本当に美味しい。
アルコールで疲れ切った胃袋に、優しく染み渡る。
あぁ、しあわせ……。
思わず、ほぅ、としあわせのため息をつく。
優しさだけで構成されている世界に迷い込んだみたいな、不思議な感覚に陥る。
なぜだろう……。
胃袋が、身体が、心が、ほかほかと温かい。
生きているしあわせを噛みしめているうちに、いつの間にか目の前の器は空になっていた。
この粥は、魔法の粥なのか……?
私は「ごちそうさまでした」と手を合わせて、顔を上げる。
目の前には相変わらずニコニコと私を見守っている、綺麗すぎる男が座っている。
「お粗末様でした。全部食べてくれてありがとう」
彼はそう言ってから、驚くほど滑らかな仕草で立ち上がり、私の目の前にある空の器を手に取った。