隠れ御曹司の愛に絡めとられて
彼がワイングラスを手に、隣へと戻ってくる。
やっぱり顔をまともに見ることが出来ない。
やばい、私、酔ってるのかも。
缶ビール一本と、グラス一杯のワインを飲んだだけなのに……。
「かっ、乾杯しようっ」
私がそう言うと、彼はまたふふっと笑って、グラスを私の方へと差し出す。
私が彼のグラスにそっと合わせると、カチン、と小気味良い音がして、グラスの中の赤紫色の液体がゆらゆらと揺れた。
「ありがとう、亜矢さん」
「べ、べつに……」
別にお礼を言われるようなことは何もしていないつもりだ。
そう思いながら私はワインを口に含んだ。
酔ってるつもりもない、普段ならワインのボトルを一本開けるぐらいじゃないと酔わないから。
それなのに、なぜだか頭がふわふわする気がする。
彼が、グラスに口をつける。
ゆっくりとワインが彼の口に流れ込んで行く。
「……美味しいね」
嬉しそうな顔で、彼が言う。
穏やかに笑う彼は、もしかすると天使なのかもしれない。
だったら私の手に負えるはずもない。
天使が相手だなんて、私に勝ち目なんてあるはずがないから――。