隠れ御曹司の愛に絡めとられて

「あっ、あの、片付けは、私が……」

「ありがとう。大丈夫だよ、亜矢さんは座ってゆっくりしてて」

「う……、はい……」


亜矢さん、と名前を呼ばれて、思わずビクリとする。

そうだった、彼の名前、思い出せてないんだった……。

何だったっけなぁ、相当酔ってた時に聞いたんだろうなぁ、本当に全然思い出せない。

最悪だ。

社会人としてあるまじき失態。


深く反省していると、チャイムの音が鳴り響いた。

彼はインターフォンのモニターを眺め、はぁ、とため息をつく。


「あー、もう来た。優秀すぎるのも困りものだなぁ。ごめん、ちょっと待ってて、受け取ってくるものがあるから」


ひらりと身を翻し、彼は部屋を出て行った。

その間に、私はこの部屋をぐるりと見回す。


大きなアイランド型のキッチンだけど、中の設備はどうやら業務用のもののようだ。

家庭用では見たことがないような大きな五徳のガスコンロ……こう言うのテレビで見たことがある、レストランの厨房なんかで使われているようなやつ。

無骨な感じのする業務用のキッチンがブルックリンスタイルのインテリアに上手くマッチしている。

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