隠れ御曹司の愛に絡めとられて

「ねえ亜矢さん。何かあった?」

「別に何も……」

「……ほんとに?」

「……」


鋭い視線を投げかけられて、滅多に見ない彼のその表情に、思わず脈拍が早くなる。

嘘だとばれているはずで、それを暴かれたくなくて抵抗するように無言になる。


「……僕じゃ何も力になれない?」

「……大丈夫」

「ほんとに?」

「……うん、本当」


頑なな私の態度に、彼は作業の手を止めてキッチンから私の顔をじっと見つめた。

彼の鋭い視線に負けるわけにはいかなくて、私は「本当になんでもないから大丈夫」と繰り返すと諦めたのか、彼は作業を再開する。

彼の気持ちは嬉しくないわけじゃないけど、巻き込みたくない。

これは私と孝治の問題だし。

近々ちゃんと会ってやめてくれるように説得するしかないのかもしれないな。

考えるだけで気が重い。


そんな事を考えている間に料理が出来たらしく、呼ばれてテーブルへと移動する。

食欲はなかったはずなのに、目の前の料理を見るとお腹がグーと鳴った。


手を合わせて「いただきます」とつぶやく。

相変わらずの美味しそうな料理に私はそっと箸を延ばした――。

< 126 / 227 >

この作品をシェア

pagetop