隠れ御曹司の愛に絡めとられて

この腕時計は一体どこからやって来たのだろう?

しばし考えたけれど、思い当たる節がない。

今日は起き抜けから驚くようなことばかりが続いていて、頭が追いつかない。

もちろん全ては昨夜私が飲み過ぎたせいなんだけれども……。


まだ上手く働かない頭を叱咤して、この腕時計が私のカバンの中に紛れ込んだ理由を考える。

それにはまず、昨日の、あの理不尽な食事会のことから思い出さなきゃいけない。

あまり思い出したいものではないけど……仕方がない。


そもそもの始まりは、昨日の会社での昼休み中に来た一件のメッセージだった――。


【今日ヒマ? 食事に行こうよ!】


そんなメッセージが、会社の同期である美紀(みき)から届いた。

少し前まで私は仕事に忙殺されていて、同期の友人との食事どころか恋人とのデートさえもままならない状態で。

少し前に会社が人員を補充してくれて、ようやく自分の時間を取り戻したところだった。


【いいよ、久しぶりに行こう!】


美紀とふたりで食事するのって一体どれぐらいぶりだろう? なんて考えながら、私は即レスした。

だってまさか、美紀があんなことをたくらんでいるだなんて思いもしなかったから――。

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