隠れ御曹司の愛に絡めとられて

完全に私の負けだ。

心の準備も出来ないまま敗北を認めることになるとはね。

諦めて小さくため息をついたところで手に持っていた布巾を取り上げられて、頬に軽くキスをされた。


「じゃ、早速イチャイチャしちゃお?」

「……ええ?」


私の手から奪った布巾をテーブルの上にポイと放り投げ、ヒョイと私を抱き上げた。

慌ててもがく私に「暴れるのはベッドの上で、ね?」なんて恥ずかしい言葉を吐いて、そのままベッドルームへと向かう。


「か、カエデくん……っ」

「んー? なぁに?」


何、と聞きながら、これは聞く耳を持たないやつだ……。

さすがにそろそろ彼のパターンが分かってきて、私は諦めて彼にギュッとしがみついた。

私の反応を見て「ふふっ」って笑っている。

ベッドへと下ろされて、嬉しそうな顔で私を見下ろしているカエデくんを睨んでみるけどきっとこれは全く効果がないんだろうな。

彼の茶色い髪がゆらりと垂れ下がっているのを見るとやっぱり触れたくなって、私は性懲りもなく手を伸ばした。

嫌がる様子もなく髪に触れさせている彼は、口元が柔らかに弧を描いている。


「……なに?」

「ふふ、亜矢さん、髪じゃないところにも触れていいよ?」

「……」

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