隠れ御曹司の愛に絡めとられて

「……は?」

「絶対に似合うから」

「……え、待って、ここで着替えるの?」

「ふふ、そうだよ?」

「……じゃあ、出ててもらっていい?」

「んふふ、やだ」

「……はあ?」


この変態め。

私が着替えるところを見たいだなんて、可愛い顔して、そう言うところだけ〝(オス)〟なんだから……。


文句を言って追い出したいところだけど彼の出勤時間が迫っているはずで、ここで押し問答をしていては彼の職場に迷惑を掛けかねない。

私は出来る限り大きなため息をついて、バスローブの紐を解いた。

なるべくカエデくんのことを視界に入れないようにしながら下着を身につける。

恥ずかしくて頬が熱いけれど、きっと恥ずかしがったら彼の思うつぼだ。

だから私はなるべくそれを表に出さないように、心を無にして衣服を身につけていく。


背中のファスナーを上げようとしたところでカエデくんに「僕が上げてあげる」と言われ、私は長い髪がその動作の邪魔にならないようにと前へ垂らして彼に背中を委ねる。

それが間違いだったと気づいたのは、むき出しの背中に口づけられた後だった。


「もうっ。油断も隙もないんだからっ」

「ふふっ、ごめんごめん。美味しそうだったから、つい」


彼の不意打ちにプリプリと怒る私に、いつものようにふわふわと笑うカエデくん……。

どっちが年上だか分からない構図だ。

彼の方が五つも年下なはずなのにぐるぐるバタバタと翻弄されているのはいつも私の方で、余裕で笑っているのは彼の方。

悔しいわけじゃないけど、こんなはずじゃなかった、とは思う。

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