隠れ御曹司の愛に絡めとられて

カエデくんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら彼の仕事が終わるのを待つ。

今日は開店準備だけで彼の仕事は終わりらしい。

あとでここで一緒に早めのランチを食べることになっている。


私の座るカウンター席からはキッチンが少し見えて、カエデくんがテキパキと作業をしているのが見えた。

お店には彼の他にも三人のスタッフがいて、時々カエデくんに指示を仰ぎながら作業を進めている。

黒のカフェエプロンをして少し長めの髪を後ろで小さく縛っているカエデくんは、控えめに見てもとても格好良くて、思わずドキリとしてしまうほどだ。

いつもと違うキリッとした雰囲気が素敵で、つい見とれてしまった。


ずるい。

普段あんなにふわふわ笑ってるのに、ギャップありすぎ。

そう思って、やっぱり苦しくなる胸をぎゅっと押さえる。


「バタバタしてごめんねー?」

「ううん、大丈夫だよ」


カエデくんが謝りながら私の前にやって来たけれど、謝られるようなことは何もない。

私が答えると、彼はふわりと笑った。

彼の笑顔はやっぱり可愛くて、好きだなぁと改めて思う。

ずっと彼の笑顔を見ていたい、ずっと彼のそばにいたい、と思う。

つい先日まで「もう誰ともつき合わない、男なんていらない」なんて思っていた矢先にこんな気持ちになるなんて……。

人生何が起こるか分からない。

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