隠れ御曹司の愛に絡めとられて

「美紀。私、帰るね。あっちは三人だし、それでちょうど人数が合うでしょ」


席を立ちながら美紀に向かってそう言うと、美紀の向かい側に座っている男が慌てて私を止めた。


「あのっ! ひとり来れなくなったんですけど、代打、頼んでるんで! もうすぐ来るはずなんで、帰らないでもらっていいッスか?」


代打……って、野球かっ。

美紀にも「帰っちゃダメだってば!」と強く腕を引っ張られ、私はしぶしぶ椅子へと座り直す。


……確かに美紀に言われたとおり、つい最近、浮気してた彼氏と別れた。

しかもなぜか私が振られた形で。

めちゃくちゃ最悪、もう男なんか信じない、信じたくもない。

とにかくしばらくは独りで良い。

なんならこのまま一生独身でも構わない気さえしてる。

男なんか必要ない。

つまり、合コンなんて、私には必要ない。

……やっぱり帰りたい。


「代打のヤツはちょっと遅れるらしいんで、先に自己紹介しちゃいましょーか!」


男性側の誰かがそう言って、自己紹介が始まった。

美紀の前に座ってる男性から時計回りに簡単な自己紹介をしていく。

その自己紹介で分かったことは、男性陣は全員24歳――私はいま29歳だから、私より五つ年下だと言うこと。

彼らは三人とも大手電機メーカー勤務で、そのうちのひとりが美紀の隣に座ってる後輩の女の子の友人らしい。

< 20 / 227 >

この作品をシェア

pagetop