隠れ御曹司の愛に絡めとられて
「えっと、あの、カエデくん……?」
「ふふ、亜矢さん、今朝ぶり~」
「え、あの、ちょっと状況が飲み込めなくて……。若月ちゃんはカエデくんと、知り合い、なの……?」
「ええ? はい。あの、楓さんは、伊吹さん――専務の弟さんですから……」
「えええええ!? 専務の、弟……!?」
「え? あの、野村さんは楓さんのことご存知なのかと思ってました……」
伊吹さんと言うのは私が勤めている篠宮商事の社長のご長男で、専務取締役を務めている人で、若月ちゃんの婚約者だ。
私と若月ちゃんのやり取りをカエデくんはニコニコ笑いながら見ている。
え、待って待って、全然理解できない。
だって、だって……。
「だってカエデくん、名字が……、イマイって……」
そう、名字が違う。
私が聞いている彼の名字は〝イマイ〟だ。
篠宮専務の弟さんという事なら名字は〝篠宮〟のはず……。
もしかして、複雑な事情が……?
「今井……? あ、それって確か、専務のお母様の旧姓だったと思います」
若月ちゃんの言葉にカエデくんも「そうそう。母の旧姓」とニコニコしている。