隠れ御曹司の愛に絡めとられて
「そう言えば楓さん、篠宮の名字を名乗るのお嫌いでしたもんね」
「そうなんだよね~。だって、すぐ社長の息子ってバレちゃうんだもんっ」
ぷう、と頬をふくらませるカエデくん……。
それを見た若月ちゃんも、カエデくんの可愛い表情を見慣れているのか、にっこり。
私はまだ状況を完全には飲み込めていなくて、ぽかんと二人を眺めていた。
「伊吹と話がしたいから、ちょっとお邪魔していい?」
「はい、どうぞ」
「じゃあちょっと行ってくるね~。あ、亜矢さん、お弁当どうだった? 量、多くなかった?」
「え、ああ、うん、大丈夫、ちょうど良かったし、美味しかった……」
「良かった。あ、今日の晩御飯は和食にしようと思うんだけど、どう?」
「う、ん、楽しみにしてる……」
「了解~。じゃあまた亜矢さんが帰る頃に迎えに来るね~」
「ん、ありがと……」
カエデくんは可愛らしく手をフリフリしながら奥の役員室へと消えて行った。
私はまだ状況を飲み込めていなくて、カエデくんが消えていった方向をぼんやりと見つめる。
は? え? どう言うこと?
カエデくんは、専務の弟?
専務の弟ってことは、社長の息子?
専務とご兄弟だけど、あまり似てないよね?
〝イマイ〟は社長夫人の旧姓?