隠れ御曹司の愛に絡めとられて

この後も通常通りの仕事をしながら、けれども頭の中ではずっと楓くんのことを考えていた。

帰ったら色々問いただしたい。

でも、社長令息相手にそんなことして良いものか……。


悩みながら仕事をしている間に、本日の就業時間が終了した――。



例の子会社の会議を終えて私より一足先に帰っていた楓くんは、当初の約束通り駅まで迎えに来てくれていた。

昼に見たスーツは普段着に着替えてしまったらしい。

スーツ姿は初めて見たけど、意外と格好良かった……。


「亜矢さん、おかえり~。お疲れ様」

「……うん、ただいま」

「ふふ。じゃあ帰ろ~」


相変わらずふわふわと笑いながら私の手を握る。

この可愛すぎる男が、社長の息子?

専務の弟?

取締役の甥?

彼の正体があまりにも予想外すぎて、どうすれば良いのか分からない。


歩きながらちらりと彼を見上げれば、それに気づいた楓くんが「ん?」と少し首を傾げる。


「亜矢さんどうしたの?」

「……言ってくれればよかったのに」

「何を?」

「専務の弟さんだってこと」

「ふふ。そうだね、ごめんね?」


可愛らしくふわりと笑って、でも少し眉尻を下げながら謝る。

あーもう、可愛すぎて怒れない。

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