隠れ御曹司の愛に絡めとられて
「でもさ。僕が篠宮家の人間だって分かってたら、亜矢さん、僕と距離をおいたでしょ?」
「……まあ、そう、かも……」
「亜矢さんには〝僕自身〟をちゃんと見てほしかったから、ちょっとだけ隠しました、ごめんなさいっ」
「……」
「僕のこと、嫌いになった?」
「……嫌いにはならないけど」
「けど?」
「逆に、篠宮家御曹司の楓くんが、私なんかでいいの? とは思う」
「僕は亜矢さんが良いんだよ」
「……」
「亜矢さんじゃなきゃ、だめ」
「……」
そんな風に言われて、嬉しいんだけど、そのまま受け入れて良いものかどうか迷ってしまう。
24歳の男の人って、まだまだ遊びたい頃なんじゃないの……?
私はもう半年もすれば30歳だし、そろそろ結婚を視野に入れたお付き合いをしたい年齢だ。
あまり寄り道ができる年齢じゃない。
色々思い悩んでいる間に彼の住むビルに着いた。
楓くんよりも先に私がエントランスの扉に手を伸ばして、グイッと引っ張る。
けれども扉はガチャッと音を立てるだけで一ミリも動かない。
「……あ、れ? 鍵、かかってる?」
この雑居ビルの管理者が入口の扉の鍵を閉めてしまったのだろうか?
隣に立つ楓くんを見上げると、相変わらずのふわふわ笑顔で私を見下ろしている。