隠れ御曹司の愛に絡めとられて
「これね、静脈認証になってるから、登録してない人が触っても開かない仕組みになってるんだ~」
「じょ、じょうみゃく……?」
「そう、静脈。あとで亜矢さんのも登録しようね」
そんな風に軽く言われて、まだ仕組みをちゃんと理解していない私は脳内にはてなマークをたくさん並べるばかり。
楓くんの言う通り、彼がドアに触れると問題なくスッと開いた。
「ここは、雑居ビルなんじゃないの……?」
「ふふ、雑居ビルに見せかけた、僕のプライベート空間でーす」
「楓くんのプライベート空間……?」
「うん。あとで全部見せるね~」
エレベーターに乗り込み、五階のボタンを押すとすぐになめらかに動き出す。
駐車場がある地下、入口がある一階、楓くんの部屋がある五階以外の場所は一体どうなっているんだろうか。
「雑居ビルじゃないってことは、テナントとかは入ってないってこと……?」
「そうだよ」
「他には誰もいないの?」
「うん、僕たちだけだよ」
「そ、っか……」
だから入り口にはビルの名前とかテナント名の入った看板とか集合ポストとかがなかったんだ、と納得する。
エレベーターはあっという間に五階へ到着し、玄関扉を開けると和風だしのいい香りがふわりと漂ってきた。
それとともに私のお腹がグーと鳴る。
相変わらず私のお腹は腹立たしいほどに食いしん坊だ。