隠れ御曹司の愛に絡めとられて
「……あの資料、亜矢さんと結麻ちゃんが準備してくれたんだよね?」
「え? ああ、うん。若月ちゃんに楓くんのこと聞いて……びっくりした」
「ふふ。ごめんね、黙ってて」
「んー、まあ、さっきのでだいたい事情は分かったから……」
「でも。説明させて?」
「うん、それはもちろん」
少し不安そうにしていた楓くんだったけれど、私の返事を聞いて、ホッとした表情へと変わった。
いつもふわふわ笑っていてあまり何にも動じそうにない雰囲気を持っているけれど、やっぱり彼でも不安になったり緊張したりするんだと、なんだか妙に安心した。
「篠宮って名字ってさ、名乗るだけですぐに『それって篠宮商事と何か関係あるの?』って絶対に聞かれるんだよね。僕は小さい頃からそれが苦手でさぁ」
それは想像に難くない。
よくある名字とは違うから、とても簡単にそう連想されてしまうのだろう。
「優秀な兄がいるって言うのもコンプレックスだったなぁ」
優秀な兄とはもちろん、我が社の専務のことだ。
確かにあんなに何もかも上手くそつなくこなせる人は世の中そう多くはないと思う。
比べられるのが重荷に感じる気持ちは理解できる。