隠れ御曹司の愛に絡めとられて
「僕は兄みたいに抜群に頭がいいってわけでもないから、小さい頃から勉強よりも母の料理を手伝ってる方が好きな子でさ」
「何歳ぐらいからお料理してたの?」
「うーん、物心ついた頃には子供用の包丁を握ってたから、ほんとに小さい時からだね」
「そうなんだ」
「うん。料理だけなら、あの兄に勝てるからね。どんどん面白くなっていって、気がついたら『夢は自分のお店を持つこと』って言ってたかなぁ」
「そっか。じゃあ叶ったってことだよね?」
「そうだね、小さい頃に想像していたのとは少し形は違うけど、叶ったよ」
「すごいね!」
「まあ僕だけの力じゃないけどね。結局は兄とか叔父さんとかが後押ししてくれてなんとか形にしてもらった感じかな」
「そんなことないよ……」
楓くんの叔父さんである取締役もお兄さんである専務も、とても優しい人ではあるけれど、ビジネスに対してはとても厳しい人だ。
血縁者だからと言ってそう簡単に全てを許可するとは思えない。
だからこそ最初はランチだけしか許可しなかったんだろうし、楓くんの頑張りが認められたからこそ、ディナーも出せるようになったんだと思う。
「楓くんが頑張ったからだよ。絶対にそうだよ」
「ふふ。ありがとう。じゃあ、僕もそう思うことにする」
「うん」
楓くんは嬉しそうにふわふわ笑っていて、私もとてもしあわせだ。
彼の笑顔は私をしあわせにする、間違いなく。