隠れ御曹司の愛に絡めとられて

「ふふっ。ごめん」


何が〝ごめん〟なの?

ふわふわ笑ってばかりだから、彼の本音はいつも分からない。


「ちょっと先走りすぎちゃった」


ホントだよ、まったく。

呆れて苦笑いしていると、楓くんはポケットから何かを取り出した。

そして私の左手を取って……。


「……え?」

「こっちが先だったよね、ふふっ、ごめん」

「……は?」


私の左手の薬指に、たったいま楓くんが嵌めた指輪が光っている。


「亜矢さん。僕と結婚して下さいっ」

「……」

「……だめ?」


小首をかしげて尋ねてくるのは卑怯だ。

自分の可愛さをわかってるやり口。


「……ばか」

「ふふっ」


そして、私が断らないって、分かってる笑み。

ズルい。


「楓くんの、ばか」

「ふふっ、ごめん」


そうやって、いつもふわふわ笑って、私の心をさらって行く。

ズルくて、可愛くて、憎めない人だ。


「……楓くん」

「うん」

「……ありがとう」

「ふふっ。うん」


彼と出会った時には想像もできなかった。

まさか、こんな未来が待ってるだなんて。


「楓くん」

「ん?」

「私と、一生一緒にいてくれる……?」

「ふふっ、もちろん!」


もし楓くんが〝篠宮 楓〟じゃなくて〝今井 楓〟だったとしても、私の気持ちはきっと変わらなかったと思う。

だって、楓くんは、楓くんだから。

きっと何も変わらない。


楓くんとなら、きっと一生、楽しい人生が送れそうだと思う。

これから先も楓くんがずっとふわふわ笑っていられるよう、努力していこう。

私を選んでくれた楓くんを、私がしあわせにしたい。

そして、一緒にしあわせになりたいと思う。


楓くん、ありがとう――。
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