隠れ御曹司の愛に絡めとられて
「……ねえ、楓くん」
「うん?」
「……もう、ドレス、脱いでいい?」
「窮屈?」
違う、窮屈なんかじゃない。
そうじゃない。
私が首を横に振ると、楓くんがふわりと笑った。
「ふふ。じゃあ、こっち来て」
ふんわりとした笑みを浮かべたのはほんの一瞬だけで、私へと手を差し出した瞬間に妖しい笑みへと変わる。
その笑みが何を意味しているのか、分かっている。
だって私自身がそう望んだのだから。
私はゆっくりと彼のもとへと近づき、差し出された手を取る。
目の前の美しい男が私を見つめる。
彼の瞳にただ一人映ることができるこの光栄さを、世界中に叫んで回りたい。
ギュッと抱きつくと、彼も私をギュッと抱き締め返してくれる。
しあわせで、胸の奥がじんと熱くなる。
「楓くん」
「なぁに?」
「ドレス、脱いでいい……?」
「いいよ」
「……脱がせてくれないの?」
「ふふ、お望みとあらば」
分かっているくせに、時々それをわざと私に言わせようとするところがある。
恥ずかしがれば彼の思うつぼ。
でも、素直に口にしたって、結局は彼の思惑通りなのだ。
どちらにしても彼には勝てなくて、やっぱり私は彼の手の平でコロコロと転がされ続けるしかない。