隠れ御曹司の愛に絡めとられて
あなたを探して
数時間前にいた駅に、私は再び立っていた。
酔っ払ってしまった私を介抱してくれたあの男と、今朝別れたばかりの駅だ。
「ええっと……? どっち、だっけ……?」
改札の出口を出て西口方面へ来たのはいいけれど……そこから先が分からない。
……は?
こんな風景だったっけ??
実は私、こう見えても“超”の付くほどの方向音痴で……。
恥ずかしいからなるべくヒミツにしてるけど、実は入社したての頃に広い社内で迷子になったことがあるほどだ。
あの時は本当に恥ずかしかった……。
私を指導してくれていた先輩で現在は副社長秘書をしている西村さんに、「今いる場所がどこか分かりません~」って大泣きしながら電話した過去……。
あれは完全に私にとっての黒歴史……。
今朝――。
車で家まで送ると言われたけれど、さすがにそれは全力で断って「電車で帰る」と言い張った私を、彼は最寄りの駅まで送ってくれた。
彼の住む建物から駅まで、そう遠くはなかったと思う。
歩いて10分かかるかどうか、ぐらいの距離だ。
道もそんなに複雑じゃなかった。多分。
私は駅を出て、あたりをグルリと見回す。
ええっと、確かこっち、だったような……、と思いながら、恐る恐る足を踏み出した。