隠れ御曹司の愛に絡めとられて
方向音痴な自覚はあるから、初めて歩く場所はなるべく風景をよく見て目印になるものを覚えるようにしている。
ただしそれは、もう一度来る可能性がある場合に限定される。
つまり、彼に最寄りの駅まで送ってもらったけど……目印を覚えるどころか、あまりの気まずさと二日酔いのせいで重い頭を抱えていたから、風景なんてほとんど何も見ていなかったのだ。
それにあの時は、まさかもう一度ここに来ることになるなんて思いもしなかったのだから、仕方がない。
心の中で言い訳をしつつ、なんとか見覚えのある気がする道を探す。
確かあの時、道を曲がってこの大通りへと出て来たのだから、どこかの脇道が彼の家へと続く道のはずだ。
と、あたり前の事を考えながら路地を覗き込む。
うーん、見覚えがあるような、ないような……?
ちょっと先まで行ってみて、違うようなら引き返そう。
そう考えて、大通りから道を一本入る。
進んでも進んでも全然ピンとこなくて、辺りをグルリと見回すけれど、やっぱり見覚えがある気が全くしない。
やっぱりこの道じゃないらしい。
クルリと踵を返してさっきの大通りへと戻り、少し進んで次の脇道へ入る。
――と言うことを何度か繰り返し。
気がついたらそこは、完全に見知らぬ場所だった――。