隠れ御曹司の愛に絡めとられて
一介の会社員が、しかも私より年下の男の子が持てるような時計じゃない。
普通の会社員にはきっと絶対に無理だ。
そりゃ、何十回払いのローンにすれば買えるだろうけど……。
でもそれって、やっぱりかなり分不相応だと思う。
それに、たとえばそこまでして買った腕時計を、あっさり無くしたり出来る?
私なら無理だ、外した途端にケースに入れて仕舞い込む。
無理、心臓に悪すぎて。
そんな無造作に扱えるほど普段から高級品を身につけているのだとしたら……やっぱり彼はホストなんだろうな。
女性からの貢ぎ物なのかも。
……あり得る。
まあ彼の職業はともかく……。
ハンカチの上に乗せた腕時計が思いがけず高級品すぎて、私は慌ててクローゼットから新品のハンカチを取り出し、それにくるみ直す。
もちろんさっきまで包んでいたハンカチもちゃんと綺麗に洗濯はしてあったけど、新品なわけじゃない、とても高級な腕時計を包んで良いものとは思えないから。
思わず腕時計を持つ手が震え、緊張で冷や汗が……。
これでますます早く持ち主に返さなくては、と言う思いが強くなった。
持ち主である彼は、きっとこれを探してるだろう。
仕事終わりから何も食べずに探し歩いて空腹だったはずなのに、一気にその空腹がどこかへ飛んでいってしまった。
今日はもう何も喉を通りそうにない。
私は、新しいハンカチに包み直したそれを再びカバンの中へと戻し、かいてしまった嫌な汗を洗い流すべく浴室へと向かった――。