隠れ御曹司の愛に絡めとられて

靴擦れするほどに


昨日、私は腕時計の真の価値を知ってしまった……。

その翌日である今日火曜日も、私は仕事終わりに彼の家を探すためにT駅に降り立つ。

この辺りもそろそろ見覚えのある感じになって来て、ここまで来ればさすがにそろそろ見つかるんじゃないかと思い始めていた。


――ところが。

結局なんとこの日も見つけることが出来なかったのである……!

私、本当にどうしようもないほどの方向音痴なんだな。

ガッカリ。自分自身に心底ガッカリ。


水曜日と木曜日は仕事が残業になってしまい、行くことが出来ず。

――そして今日は金曜日で。


「一週間が経ってしまった……」


カバンの中にある腕時計に思いを馳せつつ、思わず一人つぶやく。

冬の冷たい空気で一気に冷やされた私のひとり言が、白く漂って消える。


ここまで見つからないと、さすがに持ち主に申し訳ない。

水曜日の朝から今日の夕方まで仕事でバタバタしていて、美紀の後輩の女の子に連絡を取る時間が無かった。

もっと早く――せめてこれの価値が分かった翌日の火曜日のうちにでもお願いすれば良かった。

今週に入ってから美紀と後輩ちゃんのいる法務部がとても忙しいと言う話を美紀から聞いていたから、連絡するのを遠慮してたと言うのもある。

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