隠れ御曹司の愛に絡めとられて
だけどまさかこんなにも辿り着けないなんて……。
後悔しても、もう遅い。
とりあえず今日はこのままもう一度この辺りを探して、もしそれでもダメだったら明日にでも連絡を取ってもらえるようにお願いしよう。
明日は土曜日、せっかくのお休みなのに連絡するのは忍びないけど仕方がない。
考えが甘すぎたし、何もかもがお粗末すぎて自己嫌悪だ……。
私はスマホアプリの地図を片手に、大通りから脇道へと入る。
どの道も見たことがあるようで、見たことがない。
見覚えがあるのは、もしかすると探すためにこの道に足を踏み入れたことがあるからかも知れなくて。
ああ、私、どうして方向音痴なんだろう?
いままで29年間生きてきて、こんなに自らの方向音痴を呪った日はない。
歩きすぎてさすがに足が少し痛くなってきていた。
けれどどうしても諦めるわけにはいかなくて、私はそのまま道を進む。
なんとなく見覚えのある建物のような気がして、思わずハッとなった。
この辺りは似たような雑居ビルが建ち並ぶ通りだ。
違う、ここも、その隣も。
一棟ずつゆっくりと確認しながら歩く。
希望がだんだん絶望へと変わり始めていることに、自分でも気づいている。
心が折れそう。
見覚えがある気がしたのは気のせいだったのかな……。
ビルを何棟も確認したけど結局分からなくなってしまって、足が止まる。
パンプスと擦れた足が痛い。
きっと血が出てる。