轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「ところで清乃、昨日完成したゲームの最終話の作画、リテイク来たから」

「え?!」

「そう、リ·テ·イ·ク、やり直しだってさ」

「な、な、なんで?」

「アニメプロデューサーがどうしてもって」

「アニメプロデューサーって、あの牛乳瓶眼鏡さん?」

「そう、千紘さんね」

戦国系乙女ゲームのアニメーション部門を担当するプロデューサーである千紘は、寝癖のついた頭に牛乳瓶眼鏡の無表情な男性だ。

会議でもほとんど発言することはなく、滋子の敏腕秘書:春日に耳打ちをして、色々と指示を出す、なんとなくコミュ症気味の人だった。

「だ、ダヨネ」

仕事を終えて提出して、一発オッケーってことはまずない。

しかも、二徹の朦朧とした頭での完成だ。

クオリティに問題があっても気づけなかったかもしれない、と清乃はすんなりと受け入れた。

まあ、滋子のお陰で、眠いままながらも、美味しいお肉と極旨フレンチトースト、テンプレイケメンを満喫できたのだ。

仕事のやり直しの前の息抜きには最高の癒やしになったのだから、もう少し頑張ろう、と心に誓った。

「仕事再開は2日後からでいいのかな」

「今からに決まってるでしょ?わざわざ滋子様が迎えに来てやったのよ?先方も首を長くして待ってるわ、とっとと準備しなさいよ」

無理やりソファから立たされた清乃は、ジドッと滋子を恨めしそうに見つめた。

「三連休···」

「衣食住のご褒美前払いしたでしょ。ほら、さっさと準備する!」

清乃はしぶしぶと自室に足を向け、仕事用の衣装に着替えるべく、リビングを後にした。




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