轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
インターバル
「タカシ···さん?」
滋子にお尻を叩かれながら、いつもの戦闘服(トレーナーにジーンズ)といった出で立ちで会議室に入室した清乃は、そこに座っている意外な人物に首を傾げた。
タカシの格好は、先程ホテルを後にするときの三つ揃えのスーツではなく、清乃と同じような、ラフなシャツとジーンズに変わっていた。
その出で立ちには見覚えがある。
髪をボサボサにして、牛乳瓶眼鏡をかけたなら···あら不思議。
アニメーションプロデューサー千紘さんの出来上がりである。
"なんて、テンプレなの"
またも二次元あるあるのテンプレ展開に、清乃は呆れるどころか、血が滾るのを実感した。
モテ過ぎた故に女性不信になった攻略対象が、女性の関心を減らすために非モテキャラに擬態して生活する。
こうして本来の姿を清乃の前に晒すことになった経緯は分からないが、きっと、清乃と別れてからのこの数時間で、テンプレヒロインとの確執か何かが起こって云々、、と清乃は理解した。
「鷹司千紘(たかしちひろ)だ。普段、髪型と眼鏡は擬態している。周りが少々うるさくてな」
“はい、俺はモテる発言来ました!てか、タカシは名字だったんだ”
千紘の発言の意味は、女絡みということではなかったが、清乃は勝手に納得してウンウンと頷いた。
「驚きはしましたが、納得もしました。それにしても、せっかくのお休みなのに、私の中途半端な仕事で、タカシさんのお時間まで奪ってしまって···ごめんなさい」
「そもそも、リテイクは社長のわがまま···」
「ンンン!!···千紘さん?何か苦情でも?」
謝る清乃に、千紘は訂正を入れようとするが、滋子に睨まれ慌てて言葉を濁した。
「いや、こちらこそ休みの日に呼び出して悪かった。それと···呼び方は千紘でいい。先刻までは、清乃が俺のことにいつ気付くか、と試していた部分もあったからな」
仕事では皆、牛乳瓶眼鏡のプロデューサーを"千紘さん"と呼んでいる。
昨日お知り合いになったばかりのイケメン姿の千紘は、清乃にとっては"タカシさん"でしかないのだが、千紘が仕事でもこの姿を通すと決めたのなら、清乃も千紘呼びを貫くしかないのだろう。
テンプレイケメンのほんの少しの勇気には、周囲もおおらかな態度で対応していくしかあるまい。
「わかりました。それで、御指摘の部分ですが、どの辺りを訂正すれば良いのでしょうか?」
「相変わらず切り替えが早いな。この部分なんだが···」
何事もなかったかのように仕事の話を始めた清乃に、少しホッとしたように微笑んで、デジタル画を印刷した用紙を差し出す千紘。
「ふうん、思ったよりも(二人の仲は)順調に進んでいるようね」
デジタル画を挟んで顔を突き合わせる二人を見て、ニヤニヤする滋子に
「まだ、何も訂正してないから順調かどうか判断するのは早すぎない?」
「いや、いいのよ、あんたらはそれで。ま、あとは宜しく」
意味がわからないというように首を傾げる清乃に、手を振って会議室を後にする滋子。
そして、再び、顔を突き合わせて仕事を始めた清乃と千紘の横には、音もなくカートを運んできた春日が残した、スイーツと紅茶が置かれていた。
滋子にお尻を叩かれながら、いつもの戦闘服(トレーナーにジーンズ)といった出で立ちで会議室に入室した清乃は、そこに座っている意外な人物に首を傾げた。
タカシの格好は、先程ホテルを後にするときの三つ揃えのスーツではなく、清乃と同じような、ラフなシャツとジーンズに変わっていた。
その出で立ちには見覚えがある。
髪をボサボサにして、牛乳瓶眼鏡をかけたなら···あら不思議。
アニメーションプロデューサー千紘さんの出来上がりである。
"なんて、テンプレなの"
またも二次元あるあるのテンプレ展開に、清乃は呆れるどころか、血が滾るのを実感した。
モテ過ぎた故に女性不信になった攻略対象が、女性の関心を減らすために非モテキャラに擬態して生活する。
こうして本来の姿を清乃の前に晒すことになった経緯は分からないが、きっと、清乃と別れてからのこの数時間で、テンプレヒロインとの確執か何かが起こって云々、、と清乃は理解した。
「鷹司千紘(たかしちひろ)だ。普段、髪型と眼鏡は擬態している。周りが少々うるさくてな」
“はい、俺はモテる発言来ました!てか、タカシは名字だったんだ”
千紘の発言の意味は、女絡みということではなかったが、清乃は勝手に納得してウンウンと頷いた。
「驚きはしましたが、納得もしました。それにしても、せっかくのお休みなのに、私の中途半端な仕事で、タカシさんのお時間まで奪ってしまって···ごめんなさい」
「そもそも、リテイクは社長のわがまま···」
「ンンン!!···千紘さん?何か苦情でも?」
謝る清乃に、千紘は訂正を入れようとするが、滋子に睨まれ慌てて言葉を濁した。
「いや、こちらこそ休みの日に呼び出して悪かった。それと···呼び方は千紘でいい。先刻までは、清乃が俺のことにいつ気付くか、と試していた部分もあったからな」
仕事では皆、牛乳瓶眼鏡のプロデューサーを"千紘さん"と呼んでいる。
昨日お知り合いになったばかりのイケメン姿の千紘は、清乃にとっては"タカシさん"でしかないのだが、千紘が仕事でもこの姿を通すと決めたのなら、清乃も千紘呼びを貫くしかないのだろう。
テンプレイケメンのほんの少しの勇気には、周囲もおおらかな態度で対応していくしかあるまい。
「わかりました。それで、御指摘の部分ですが、どの辺りを訂正すれば良いのでしょうか?」
「相変わらず切り替えが早いな。この部分なんだが···」
何事もなかったかのように仕事の話を始めた清乃に、少しホッとしたように微笑んで、デジタル画を印刷した用紙を差し出す千紘。
「ふうん、思ったよりも(二人の仲は)順調に進んでいるようね」
デジタル画を挟んで顔を突き合わせる二人を見て、ニヤニヤする滋子に
「まだ、何も訂正してないから順調かどうか判断するのは早すぎない?」
「いや、いいのよ、あんたらはそれで。ま、あとは宜しく」
意味がわからないというように首を傾げる清乃に、手を振って会議室を後にする滋子。
そして、再び、顔を突き合わせて仕事を始めた清乃と千紘の横には、音もなくカートを運んできた春日が残した、スイーツと紅茶が置かれていた。