轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
今日は二徹明けというのに散々な始まりだった。
締め切り目前の仕事をようやく完結させ、デスクに突っ伏し、事切れるように眠ったのが五時間前(だったと思う)。
ようやく深い眠りに···と微睡んだ瞬間、悪魔の言葉が、清乃の右耳を擽った。
「清乃ぉ、仕事も約束も待ったやハッタリは効かないって知ってるよねぇ」
そう、3日前に生返事をした、例の接待?の日が、今日であったと思い出したのがその瞬間。待ったもハッタリも効く余裕すらない現状は理解した。
それでも、ぼんやりと、成り行きを把握しようと頑張る頭を元気づけようと、無駄な努力をする清乃を嘲笑うかのように、そこからの滋子の動きは素早かった。
忍びも真っ青。計画的犯行としか思えない早業だ。
いつもはクライエントと言い合いをす···コホン、接待する応接室は着付け室に早変わりしており、どこから来たのか?!美人エステティシャンの手に掛かれば、目の下のくまはホットアイマスクとゴッドハンドマッサージにより完璧に除去。
お次に、日本舞踊のお師匠か?と見紛うほど品の良い女性の手により、豪華で品の良い振り袖を着こなす、お育ちの良さそうなお嬢様の出来上がり。
そんな一連の怒涛の流れをもろともせず、うつらうつらする清乃を無視して、
彼女を乗せた会社御用達のお車は優雅に発進した(ようだ)。
束の間の休息を経て、どこかの敏腕執事か、と見紛う滋子社長の秘書(男)に叩き起こされ、清乃が某有名ホテルのラウンジに誘導、着席させられたのが10分前。
そうして間もなく、細マッチョテンプレイケメンが登場したのが五分前、という流れだ(どういうわけだ!)。
思い起こせば(起こす程時間は経ってない)、
「初めまして。滋子···社長にご紹介にあずかり参上仕りました、島崎清乃と申す、申します」
と、眠い頭を賢明に隠しながらも(いや、言葉遣いがサムライ語になっている時点で終わっている)、丁寧に挨拶する清乃に
「···タカシ···だ」
と、氏なのか、名なのか分からない名前を名乗った"タカシさん"が、初めて紡いだ言葉が冒頭の
『君を愛することはない』
だった。
“フルネームすら教える価値もない”
そんな俺様な気持ちが透けるような初見の態度。
今回の面会?接待?お見合い?の意図を全く理解せずにこの場にのぞんだ清乃も清乃だったので、反省する気持ちも無きにしもあらずである。
彼のその一言と態度で、どこぞのタカシさんも、自分の意志に反して、このお見合い?らしき会合に駆り出されたのだ、と瞬時に悟った。
乙女ゲームもしくはファンタジー小説の、王子か、騎士か、宰相の息子か、はたまた神官?が口にするようなテンプレのセリフを続けて言われなくても、一を聞いて十を知る、のがヲタク文化制作者側というもの。
“よき、よき。無駄な時間は省略して、とっとと帰ろうよ、ってことね”
長居はしたくないのはどちらも同じ。
何せ、清乃はついさっきまで“戦国系乙女ゲーム”の動画イラストの締切に追われ、二徹明けなのだ。
ようやく開放される、と微笑んだ刹那の拉致。
“難儀でござるな”
担当していたキャラの、癒しボイスが清乃の脳裏をエコーを伴い駆け巡る。
そう、タカシさんも清乃も、言うなれば被害者。
全ては会社と、クライエントと、滋子が悪い。
なぜか、想像以上に苦味の強い紅茶?を口に含みながら、清乃は、目の前のテンプレイケメン“タカシさん”に、奇妙な同情を覚えるのだった。
締め切り目前の仕事をようやく完結させ、デスクに突っ伏し、事切れるように眠ったのが五時間前(だったと思う)。
ようやく深い眠りに···と微睡んだ瞬間、悪魔の言葉が、清乃の右耳を擽った。
「清乃ぉ、仕事も約束も待ったやハッタリは効かないって知ってるよねぇ」
そう、3日前に生返事をした、例の接待?の日が、今日であったと思い出したのがその瞬間。待ったもハッタリも効く余裕すらない現状は理解した。
それでも、ぼんやりと、成り行きを把握しようと頑張る頭を元気づけようと、無駄な努力をする清乃を嘲笑うかのように、そこからの滋子の動きは素早かった。
忍びも真っ青。計画的犯行としか思えない早業だ。
いつもはクライエントと言い合いをす···コホン、接待する応接室は着付け室に早変わりしており、どこから来たのか?!美人エステティシャンの手に掛かれば、目の下のくまはホットアイマスクとゴッドハンドマッサージにより完璧に除去。
お次に、日本舞踊のお師匠か?と見紛うほど品の良い女性の手により、豪華で品の良い振り袖を着こなす、お育ちの良さそうなお嬢様の出来上がり。
そんな一連の怒涛の流れをもろともせず、うつらうつらする清乃を無視して、
彼女を乗せた会社御用達のお車は優雅に発進した(ようだ)。
束の間の休息を経て、どこかの敏腕執事か、と見紛う滋子社長の秘書(男)に叩き起こされ、清乃が某有名ホテルのラウンジに誘導、着席させられたのが10分前。
そうして間もなく、細マッチョテンプレイケメンが登場したのが五分前、という流れだ(どういうわけだ!)。
思い起こせば(起こす程時間は経ってない)、
「初めまして。滋子···社長にご紹介にあずかり参上仕りました、島崎清乃と申す、申します」
と、眠い頭を賢明に隠しながらも(いや、言葉遣いがサムライ語になっている時点で終わっている)、丁寧に挨拶する清乃に
「···タカシ···だ」
と、氏なのか、名なのか分からない名前を名乗った"タカシさん"が、初めて紡いだ言葉が冒頭の
『君を愛することはない』
だった。
“フルネームすら教える価値もない”
そんな俺様な気持ちが透けるような初見の態度。
今回の面会?接待?お見合い?の意図を全く理解せずにこの場にのぞんだ清乃も清乃だったので、反省する気持ちも無きにしもあらずである。
彼のその一言と態度で、どこぞのタカシさんも、自分の意志に反して、このお見合い?らしき会合に駆り出されたのだ、と瞬時に悟った。
乙女ゲームもしくはファンタジー小説の、王子か、騎士か、宰相の息子か、はたまた神官?が口にするようなテンプレのセリフを続けて言われなくても、一を聞いて十を知る、のがヲタク文化制作者側というもの。
“よき、よき。無駄な時間は省略して、とっとと帰ろうよ、ってことね”
長居はしたくないのはどちらも同じ。
何せ、清乃はついさっきまで“戦国系乙女ゲーム”の動画イラストの締切に追われ、二徹明けなのだ。
ようやく開放される、と微笑んだ刹那の拉致。
“難儀でござるな”
担当していたキャラの、癒しボイスが清乃の脳裏をエコーを伴い駆け巡る。
そう、タカシさんも清乃も、言うなれば被害者。
全ては会社と、クライエントと、滋子が悪い。
なぜか、想像以上に苦味の強い紅茶?を口に含みながら、清乃は、目の前のテンプレイケメン“タカシさん”に、奇妙な同情を覚えるのだった。