轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「この部分は特に力を入れたい部分なんだ。狼犬《ウルハイ》の特徴は色の出し方にある。他社のゲームとの棲み分けをはっきりするためにも、そこは譲れない」

千紘が指摘したデジタルの動画用原画は、確かに狼犬《ウルハイ》の原画の醸し出す色合いとは微妙に異なっているように見えた。

漫画やイラストの原画と、アニメや動画の作風が異なることはよくある。

短期間に何枚も下絵を作成するのだから、背景や人物画が雑になっても仕方がないのかもしれない。

しかし、ファンや作者にとっては納得いかないことも多々あり、その点が大きなネックとなって、結局は受け入れられずに失敗するケースも存在するのだ。

予算や限られた期限のある中、ダメ出しをすることは作者のわがままか、プロデューサーのエゴと言われる可能性もあるが、ユーザーに納得のいくものを、と考え努力する千紘の姿勢に、清乃も初めから賛同していた。

「確かに、これでは、狼犬《ウルハイ》の儚さや繊細さが損なわれてしまい、キャラクターの良さも半減しますね。早速やり直します」

キャラデザイナーが全ての工程を一人で担えれば問題は少なくなるだろう。

しかし、何千、何万もの工程を、デザイナーひとりで賄うことは到底無理である。

ゲーム化、アニメ化するということは、デザイナーが、自ら生み出したキャラクターの変化を容認する強さの上に成り立っていると清乃は感じていた。

「君は狼犬《ウルハイ》の作風を大切にしてくれているんだな」

「千紘さんだってそうでしょう?それに、最早、このゲームは私の子供たちと言っても過言ではありませんから」

「ああ、そうだな。···ありがとう」

千紘のつぶやきは、デジタル画の訂正に熱中し始めた清乃の耳には届いていなかった。


< 20 / 73 >

この作品をシェア

pagetop