轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「清乃も···二次元のイケメンが好きなのか?」

真剣にデジタル画に向き合っていた清乃は、突然の千紘の問いにのっそりと顔を上げた。

「それは、二次元が恋愛対象か、って意味ですか?」

「いや、社長が清乃は三次元(リアル)の男には興味ないって言ってたから、その、今清乃が描いてるキャラクターなんかが好みなのかと思ってな」

清乃はなるほど、と画面に映っている、清乃の担当のイケメン武将を眺めながら、フムと頷いた。

「イケメンというより、好きな絵師さんの描くキャラクターが箱推しといいますか···」

「箱推し?」

「ええ、全部大好きという意味です」

箱推しとは、特定の人物を推すのではなく、その中のグループメンバーやキャラクター全体を応援することを意味する。

「私は絵は描けますが、オリジナルのキャラクターを生み出すことはできません。こういった誰かの原画を真似る模写はできるんですけどね。想像力に欠けているんです」

内容は卑屈めいて聞こえるが、発言している清乃の表情は明るい。

というか、清乃以上に想像力(清乃の場合は妄想力)に長けている人物はいないのでは、と千絋は心の中で突っ込んでいた。

「だからこそ、三次元に存在している自分好みのキャラクターを生み出してくれる絵師さんを心から愛していますし、こうして自分が命を吹き込み実際に動いてくれる推しキャラもしかり。私の愛は次元をも超えるので、一元には語り尽くせません」

清乃は昔から綺麗な物が好きだった。

キラキラと輝く石、夜空に瞬く星と月、流れる雲に羽ばたく鳥や咲き誇る花。

それらに感動する気持ちを表現する方法が、清乃にとっては絵であった。

しかし、リアルに存在するものをどんなに忠実に描き写しても、それはリアルを越えることはなかなかに難しい。

そんな、ジレンマを抱える清乃の心を捉えたのが創作の世界だった。

中でも、アニメやイラスト、漫画に表現された美しい世界は別格。

無限に広がる可能性を秘めた世界に、清乃が引き込まれるのは簡単だった。

世の中には、汚いことや納得できないこと、矛盾したことが溢れかえっている。

しかし、二次元の世界では美しさや楽しさだけを追求することも可能だ。

それは、現実から目を逸らすということではなく、誰にでも夢や希望を与えられるということ。

そんな存在に近づきたくて、清乃はこのジャンルを選択した。

決して三次元(リアル)に興味がないわけではなく、否定しているわけでもない。

欲と自分の技術を活かすことを優先した結果が、二次元推し更にその世界を生きることに繋がった、というだけだった。


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