轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「ほれ、ご飯だよ。全く···あんたたちはいつも寝食忘れて作業に没頭するんだから」
「滋子」
滋子はあたかも、自分が心配して昼食の準備をしてくれたかのように話しているが、全ての段取りは勿論、春日によるものである。
「ちょっと、滋子ったら、随分大きなリーサルウェポンを隠してたわね。驚き過ぎて仕事が手につかないじゃない」
「その割には、ノリノリでリテイクに取り組んでるわよね?」
「だって、狼犬《ウルハイ》、いや、千紘さんから直々に指導が受けられるんだよ?あー、今までの私、かなり損してたんじゃないかなー。こんなに近くに尊師がいたってのに···」
ブツブツと持論を述べる清乃は、持っていたペンタブのペンを下ろすと、春日の準備したアールグレイティーとBLTサンドに手を付けた。
「贅沢言ってんじゃないわよ。あんた、近くに狼犬《ウルハイ》がいると知ったら仕事にならなかったでしょうが!」
それはそうかもしれない。
先刻までの清乃は、神絵師である狼犬《ウルハイ》を虚像のような神として崇め奉っていた。
姿を表さないこともあり、その人は、三次元に実在しない“AI”のような、Unrealな存在ではないか、と思っていたところもあったからだ。
だが、俺様イケメンタカシ→牛乳瓶眼鏡陰キャプロデューサー千紘→狼犬《ウルハイ》鷹司千紘、と段階的に、その人となりを知ることができたことで、彼自身の良さを理解できたと思っている(上から目線)。
「実はこの人、めっちゃ警戒心が強いのよ。私も春日も、ようやく2年前に口説き落として一緒に仕事ができたくらいだもの。あんたみたいな真性信者に初めから心開くかっつーの」
なるほど、滋子は、清乃と千紘の性格を鑑みて、あの回りくどい出会いを演出したというのか、ご苦労様。
「狼は警戒心が強いらしいもんね、狼犬もそうだって聞くし。···ってことは千紘さんも警戒心強い?」
「人と物によるな」
狼犬《ウルハイ》のファンになって、清乃はその名前の成り立ちにも興味を持ち、狼犬のことを調べてみたことがある。
狼犬として認定されている2種は、日本では生体販売されておらず、カナダから輸入出来る1種も、飼育するためには都道府県の許可がいるらしい。
肉食である狼の血を引く狼犬。
狼の血が濃いほど警戒心が強く、主を信用するまでに時間もかかり、散歩や餌、他人との関わり方などたくさんの課題があるという。
「あー、でも、どちらにせよ、私は初めに馴れ合うつもりはないって言われたもんなぁ、問題外か···残念」
ボソリと呟いた清乃の言葉は、いつのまにか己のパソコンを取り出し、仕事を始めていた滋子のキーボードを打つ音と混ざり合い、儚く散った。
「滋子」
滋子はあたかも、自分が心配して昼食の準備をしてくれたかのように話しているが、全ての段取りは勿論、春日によるものである。
「ちょっと、滋子ったら、随分大きなリーサルウェポンを隠してたわね。驚き過ぎて仕事が手につかないじゃない」
「その割には、ノリノリでリテイクに取り組んでるわよね?」
「だって、狼犬《ウルハイ》、いや、千紘さんから直々に指導が受けられるんだよ?あー、今までの私、かなり損してたんじゃないかなー。こんなに近くに尊師がいたってのに···」
ブツブツと持論を述べる清乃は、持っていたペンタブのペンを下ろすと、春日の準備したアールグレイティーとBLTサンドに手を付けた。
「贅沢言ってんじゃないわよ。あんた、近くに狼犬《ウルハイ》がいると知ったら仕事にならなかったでしょうが!」
それはそうかもしれない。
先刻までの清乃は、神絵師である狼犬《ウルハイ》を虚像のような神として崇め奉っていた。
姿を表さないこともあり、その人は、三次元に実在しない“AI”のような、Unrealな存在ではないか、と思っていたところもあったからだ。
だが、俺様イケメンタカシ→牛乳瓶眼鏡陰キャプロデューサー千紘→狼犬《ウルハイ》鷹司千紘、と段階的に、その人となりを知ることができたことで、彼自身の良さを理解できたと思っている(上から目線)。
「実はこの人、めっちゃ警戒心が強いのよ。私も春日も、ようやく2年前に口説き落として一緒に仕事ができたくらいだもの。あんたみたいな真性信者に初めから心開くかっつーの」
なるほど、滋子は、清乃と千紘の性格を鑑みて、あの回りくどい出会いを演出したというのか、ご苦労様。
「狼は警戒心が強いらしいもんね、狼犬もそうだって聞くし。···ってことは千紘さんも警戒心強い?」
「人と物によるな」
狼犬《ウルハイ》のファンになって、清乃はその名前の成り立ちにも興味を持ち、狼犬のことを調べてみたことがある。
狼犬として認定されている2種は、日本では生体販売されておらず、カナダから輸入出来る1種も、飼育するためには都道府県の許可がいるらしい。
肉食である狼の血を引く狼犬。
狼の血が濃いほど警戒心が強く、主を信用するまでに時間もかかり、散歩や餌、他人との関わり方などたくさんの課題があるという。
「あー、でも、どちらにせよ、私は初めに馴れ合うつもりはないって言われたもんなぁ、問題外か···残念」
ボソリと呟いた清乃の言葉は、いつのまにか己のパソコンを取り出し、仕事を始めていた滋子のキーボードを打つ音と混ざり合い、儚く散った。