轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「それでは、宴もたけなわですし、解散といたしますか?」

「君と宴をしていた覚えは毛頭ないが?」

ここまで、清乃が発した『存じ上げております』から、2分弱が経過。

清乃の中では、過去3日間の記憶が走馬灯のように駆け巡り、思考を保つ限界を感じた末の言葉だったが、そんな清乃の脳内を共有できないタカシに、清乃の発言を理解しろというのは無謀な話である。

本当は、清乃は口に出したつもりはなかったのだが、なんの落ち度かタカシには聞こえてしまったようだ。

「それでは···ご趣味は?」

「唐突だな。···趣味は···仕事だろうか?」

小説などの二次元なら、浮気をする男性の常套句である。

イケメンキャラあるあるだが、3次元(リアル)にも、そんな男性は結構いるらしいと、滋子が言っていた。

「言わば···私もそうです。共通点があってよかったですね」

趣味は実益を兼ねるともいうが、女性でも浮気の常套句と言えるのだろうか?

のほほんとそんな事を考えるが、本当に結婚する相手ではないからいいか、と思っていると

「馴れ合うつもりはない」

などと、テンプレ発言再びである。

眠気を冷ます、俺様ワードをチョイチョイぶっ込んでくるタカシは、本当は策士(何の?)なのか。

“それにしても、苦くてまずい紅茶でござるな”

意識をタカシに向けようと必死に眠気と戦っているうちに、清乃の鈍感になっていた味覚も正常な感覚を取り戻しつつあるようだ。

ラウンジの端に、まるでこのホテルの、この店の、ウェイターかのように佇む滋子の秘書が目に入る。

パッと見は優し気なウェイター。

しかし微笑みを浮かべながらも、その瞳は笑っていない。

まるで、獲物を狙うスナイパー、いや江戸時代の人斬りのようだ。

“この紅茶には、おそらくメガシャ○ーン的な何かが混ざっている”

清乃は強制的な覚醒を促されている感を感じ取り、「眠るな危険」という、滋子とその秘書の隠密ワードを密かに受け取った。

※正解は、混ぜてないただの紅茶味の滋養強壮剤です。清乃の体感では二徹ですが、本人が無自覚に数時間毎の仮眠を取っていることを滋子は確認済みです。


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