轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「千紘さん、トレーダーさんだったんですか?」
「ああ、トレーディングなら自宅でもできるし、何より人と接触しなくて済むなんて僥倖だからな」
残り2部屋の内の1つ。
それは、パソコンが3台とセミダブルのベッドが置かれただけのシンプルな部屋だった。
3台それぞれの画面には、別々の投資会社の状況が、分刻みで映し出されている。
「電源を入れっぱなしで大丈夫なんですか?」
「ハッキングやトラッキングの防止策は取っている。遠隔操作もできるようにしているから、さっき車内で電源を入れたんだ」
ハイテクなことは良くわからないが、千紘がトレーディングで稼いでいるのであろう、テンプレ中のテンプレ、インテリイケメンであることは理解した。
あの牛乳瓶眼鏡は、正直、千紘の良さを隠してしまうので勿体ないが、眼鏡枠イケメンの需要を満たすのであれば、あり寄りのありである。
「人と関わらなくていいからトレーダー選ぶなんて、どこまでコミュ障拗らせ···」
ついつい笑ってしまった清乃は、それ以上、余計な事を言うまいと自らの手のひらで口を抑えた。
「だよな。絵の仕事も同じなんだ。最悪、ネットを介せば終わるだろ?」
肩を竦める千紘に、
「ですよね!徹底して信念を貫ける千紘さん、流石です」
と、清乃は大きく頷きながら言った。
「全く···清乃は天然過ぎて、警戒心を忘れる」
「えっ、なにか言いましたか?」
千紘の呟きが聞き取れずに、清乃は素直に聞き返したのだが、
「いや、何でもない。次は本命のこっちだな」
と、千紘は話題を変えてしまい、清乃の問いには答えてくれなかった。
何を見ても、何を聞いても、ありのままの千紘を受け止め受容してくれる清乃。
そこには打算も欲望も全く見てとれない。
もしもこれが計算ずくなら、とんだ悪役令嬢だ。
この二日間、いや、2年間というべきか。
その真っ直ぐな性格に心底癒やされてしまっていることに、千紘は本当は気付いていたのだ。
まんまと滋子の思惑にハマってしまったようで癪に触るが、その代わりに得難いものを手に入れることが出来そうでむず痒い。
千紘は、柄にもなく浮かれそうになっている自分を嗜めるように、真っ直ぐに次の目的地を目指した。
「ああ、トレーディングなら自宅でもできるし、何より人と接触しなくて済むなんて僥倖だからな」
残り2部屋の内の1つ。
それは、パソコンが3台とセミダブルのベッドが置かれただけのシンプルな部屋だった。
3台それぞれの画面には、別々の投資会社の状況が、分刻みで映し出されている。
「電源を入れっぱなしで大丈夫なんですか?」
「ハッキングやトラッキングの防止策は取っている。遠隔操作もできるようにしているから、さっき車内で電源を入れたんだ」
ハイテクなことは良くわからないが、千紘がトレーディングで稼いでいるのであろう、テンプレ中のテンプレ、インテリイケメンであることは理解した。
あの牛乳瓶眼鏡は、正直、千紘の良さを隠してしまうので勿体ないが、眼鏡枠イケメンの需要を満たすのであれば、あり寄りのありである。
「人と関わらなくていいからトレーダー選ぶなんて、どこまでコミュ障拗らせ···」
ついつい笑ってしまった清乃は、それ以上、余計な事を言うまいと自らの手のひらで口を抑えた。
「だよな。絵の仕事も同じなんだ。最悪、ネットを介せば終わるだろ?」
肩を竦める千紘に、
「ですよね!徹底して信念を貫ける千紘さん、流石です」
と、清乃は大きく頷きながら言った。
「全く···清乃は天然過ぎて、警戒心を忘れる」
「えっ、なにか言いましたか?」
千紘の呟きが聞き取れずに、清乃は素直に聞き返したのだが、
「いや、何でもない。次は本命のこっちだな」
と、千紘は話題を変えてしまい、清乃の問いには答えてくれなかった。
何を見ても、何を聞いても、ありのままの千紘を受け止め受容してくれる清乃。
そこには打算も欲望も全く見てとれない。
もしもこれが計算ずくなら、とんだ悪役令嬢だ。
この二日間、いや、2年間というべきか。
その真っ直ぐな性格に心底癒やされてしまっていることに、千紘は本当は気付いていたのだ。
まんまと滋子の思惑にハマってしまったようで癪に触るが、その代わりに得難いものを手に入れることが出来そうでむず痒い。
千紘は、柄にもなく浮かれそうになっている自分を嗜めるように、真っ直ぐに次の目的地を目指した。