轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「社長は、狼犬《ウルハイ》のフォロワーの一人で、グロウだ」
「?!」
グロウは、3年前から狼犬《ウルハイ》のイラストコメントにチョイチョイ顔を出すようになったウルハイフォロワーの常連である。
かくいう、2年前のコミケに、狼犬《ウルハイ》の2次創作グループが出店する情報をくれたのはグロウだった、はず。
「グロウ···grow?···茂る···滋子?!ベタ過ぎる」
今更気付く清乃も馬鹿すぎるが、数万いるフォロワーの中のたった一人のユーザーネームを推測しろというのは無理ゲーである。
本人がネタバレしなければ、素性がわからないのは当然だと思いたい。
「俺とグロウはプライベートでたまたま知り合いだった。ヘタレでコミュ障の俺は、キヨノンに会いたくても言い出せずにいたのを社長が知った。だから奴は賭けに出たんだ。コミケ情報を流せば、必然的にキヨノンが現場に現れるのではないかと」
“私は殺人犯かレアポ○モン扱いか?!”
出会う前からの滋子の清乃に対する雑な扱いに、頭の中だけでツッコミを入れるがそれ以上考えたら負けである。
「キヨノンが日本人でなかった場合、もしくは地方に住んでいる場合は現場に出現する可能性は薄い。しかし、狼犬《ウルハイ》という餌を蒔けば、必ずやキヨノンは現れるであろう、とグロウは言ったんだ」
どんなレアポケ○ンだよ、素直に来いと言えよ、と清乃は思ったが、コミュ障拗らせているこの男と捻くれ者の滋子には何を言っても無駄だ、と考え直し黙って続きを聞くことにした。
「俺は半信半疑で出たくもない人前に出て、来ないかもしれないキヨノンを待った」
来いといえば、ホイホイ喜び勇んで行ったのに、と再び清乃は思う。
だが、想像以上に目の前の男が可愛すぎて言えないでいる。
「しかしキヨノンは来てくれた。狼犬《ウルハイ》がいるわけでもないのに。俺の2次創作が出るという、信憑性すら薄い情報だけを信じて」
なんか、千紘の中では大袈裟なことになっているが、清乃の中ではそんな大それたことではない。
清乃は会議場近くの隣県に住んでいたし、イラストレーターとしてはフリーで動いていて時間もあった。
勿論、供給の少ない神絵師である狼犬《ウルハイ》絡みの作品など、2次創作とはいえ見逃すつもりは毛頭なし。
清乃にとってはその情報がガセでも、イラストレーターとしてはコミケ自体が宝の山なのである、行って損はない。
そんな事を考えている清乃の横で、千紘の昔語りは続いていた。
「実際に会ったキヨノンは凛とした中性的な女性だった。口にする俺の作品への評価も、SNS上でもコミケでも何ら変わりがなかった。裏表のない素直な女性だと思ったんだ」
千紘の清乃に対する思わぬ高評価に驚くが、コミケでの牛乳瓶眼鏡千絋に対する清乃の評価は、一言でいうと『絵に描いたような陰キャキャラ』だった。
ブースの一番後ろの端に座り、黙々と作品の袋詰を行っていた。
その手捌きから、彼は見た目を陰キャキャラで誤魔化しているだけで、本性は違うのだろうな、と感じた。
そんな千紘に清乃は
「あなたも狼犬《ウルハイ》のファンですか?貴方の作品はどれですか?推しは?」
と、畳み込むように声をかけた覚えがある。
しかし、一言も発さずに固まっている千紘に
「この人はただの売り子の手伝いだから気にしなくていいよ」
と、何故か千紘に対して睨みを効かせた滋子が怖くて、話しかけるのを止めた経緯がある、たしか。
「?!」
グロウは、3年前から狼犬《ウルハイ》のイラストコメントにチョイチョイ顔を出すようになったウルハイフォロワーの常連である。
かくいう、2年前のコミケに、狼犬《ウルハイ》の2次創作グループが出店する情報をくれたのはグロウだった、はず。
「グロウ···grow?···茂る···滋子?!ベタ過ぎる」
今更気付く清乃も馬鹿すぎるが、数万いるフォロワーの中のたった一人のユーザーネームを推測しろというのは無理ゲーである。
本人がネタバレしなければ、素性がわからないのは当然だと思いたい。
「俺とグロウはプライベートでたまたま知り合いだった。ヘタレでコミュ障の俺は、キヨノンに会いたくても言い出せずにいたのを社長が知った。だから奴は賭けに出たんだ。コミケ情報を流せば、必然的にキヨノンが現場に現れるのではないかと」
“私は殺人犯かレアポ○モン扱いか?!”
出会う前からの滋子の清乃に対する雑な扱いに、頭の中だけでツッコミを入れるがそれ以上考えたら負けである。
「キヨノンが日本人でなかった場合、もしくは地方に住んでいる場合は現場に出現する可能性は薄い。しかし、狼犬《ウルハイ》という餌を蒔けば、必ずやキヨノンは現れるであろう、とグロウは言ったんだ」
どんなレアポケ○ンだよ、素直に来いと言えよ、と清乃は思ったが、コミュ障拗らせているこの男と捻くれ者の滋子には何を言っても無駄だ、と考え直し黙って続きを聞くことにした。
「俺は半信半疑で出たくもない人前に出て、来ないかもしれないキヨノンを待った」
来いといえば、ホイホイ喜び勇んで行ったのに、と再び清乃は思う。
だが、想像以上に目の前の男が可愛すぎて言えないでいる。
「しかしキヨノンは来てくれた。狼犬《ウルハイ》がいるわけでもないのに。俺の2次創作が出るという、信憑性すら薄い情報だけを信じて」
なんか、千紘の中では大袈裟なことになっているが、清乃の中ではそんな大それたことではない。
清乃は会議場近くの隣県に住んでいたし、イラストレーターとしてはフリーで動いていて時間もあった。
勿論、供給の少ない神絵師である狼犬《ウルハイ》絡みの作品など、2次創作とはいえ見逃すつもりは毛頭なし。
清乃にとってはその情報がガセでも、イラストレーターとしてはコミケ自体が宝の山なのである、行って損はない。
そんな事を考えている清乃の横で、千紘の昔語りは続いていた。
「実際に会ったキヨノンは凛とした中性的な女性だった。口にする俺の作品への評価も、SNS上でもコミケでも何ら変わりがなかった。裏表のない素直な女性だと思ったんだ」
千紘の清乃に対する思わぬ高評価に驚くが、コミケでの牛乳瓶眼鏡千絋に対する清乃の評価は、一言でいうと『絵に描いたような陰キャキャラ』だった。
ブースの一番後ろの端に座り、黙々と作品の袋詰を行っていた。
その手捌きから、彼は見た目を陰キャキャラで誤魔化しているだけで、本性は違うのだろうな、と感じた。
そんな千紘に清乃は
「あなたも狼犬《ウルハイ》のファンですか?貴方の作品はどれですか?推しは?」
と、畳み込むように声をかけた覚えがある。
しかし、一言も発さずに固まっている千紘に
「この人はただの売り子の手伝いだから気にしなくていいよ」
と、何故か千紘に対して睨みを効かせた滋子が怖くて、話しかけるのを止めた経緯がある、たしか。