轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「メジャーデビューの話が来たときも、最初は辞退しようと思っていたんだ。にわか絵師の俺がマニア以外に通用するとは思ってなかったからな」
「おい、たとえ作者本人でも狼犬《ウルハイ》の実力を貶すこたぁ許さねえぞ」
「はは、何キャラだよ」
清乃の軽めの脅しをさらりと躱した千紘には、先程までの卑屈な陰はどこにも見当たらなかった。
「だが、俺の絵のことを一番理解してくれている清乃が、ゲーム制作予定の会社に入社することになった。俺は清乃の人となりを近くで見られる千載一遇チャンスだと思って、この話に乗ったんだ」
ちょっと発言がストーカー地味ている気もしないでもないが、これだけ高評価してくれているのだから、と清乃は心に浮かぶ懸念をスルーすることにした。
「この仕事を受けるのはある種の賭けだった。結果的には、社長が俺にお前という最強のパートナーとやりがいを与えてくれたが、負ければ失うものも大きい」
いつの間にか最強のパートナーにまで格上げされている事実。
現状、清乃は自分が彼にとって、どのランクにまで登りつめていくのか見当もつかない。
ともあれ、エンターテイメントあるあるだが、どんなに前評判や宣伝効果が高くても、肝心の中身が伴わなければ衰退していくのは必然である。
特にゲーム分野は、次から次に新作が生まれ、斬新さや内容の面白さが伴わなければ飽きられるのも速い。
当たれば大きいが、受け入れられなければ大赤字を招くこともある。
だから、千紘がある種の賭けである、と言ったことは間違いではない。
幸い、滋子が今回手掛けたゲームは、乙女ゲームと銘打っているものの、冒険RPG要素もあり、アニメやスマホゲームとも連動することから先行予約数も跳ね上がり黒字が見込まれている。
そのため、今後も定期的にアップデートしたり、キャラクターグッズの販売促進など、予定は目白押しとなっている有り難い状況だ。
キャラデザイナー兼プロデューサーである千紘も、イラストレーター兼アニメーターである清乃も気の抜けない状況は今後も続いていくことだろう。
「とりあえずはやりきったと思う。だが、もう1つ大きな問題が残っているんだ」
バックハグを続ける千紘の表情は、振り向かなければわからない。
しかし、このあと続く言葉には嫌な予感しかしない。
「今度、当社の親会社である村瀬ITコーポレーションのパーティがあるのは知ってるよな?」
それは、ゲームの完成と、滋子の会社の創立2周年を祝うパーティだ。
勿論、清乃もその話は知っていたが、いちイラストレーターでしかない自分には縁のない話だと思って適当に聞いていたため詳細は知らない。
「親会社の反対意見を押し切ってゲーム業界に参入した社長と、メインプロデューサーの俺はおそらくそこではアウェイだ。だからこそ味方がほしい。清乃もパートナーとして俺と一緒に参加してくれないだろうか?」
文字通り、清乃がパーティ嫌いと知っての狼藉だろうが、雨に打たれた子犬のように項垂れる千絋は絵面的に反則だった。
リアルイケメンにもショタキャラにも需要のないはずの清乃だったが、弱った狼犬のしょんぼり絵面には弱いのだ、ということをここに来て知った。
「···私が力になれるとは到底思えませんが」
清乃は、権力の行使や見栄の張り合いが顕著となるこうしたパーティが嫌いだった。
滋子の会社に入社して2年、そのようなパーティに参加することは極力避けていたし、パーティに参加しないことを入社の条件にしたこともある。
「そばにいてくれるだけでいいんだ」
悲しそうに上目遣いをする狼犬に、パーティ嫌いを貫き通してきた清乃に眠っていた慈悲の心が揺さぶられる。
「立ってるだけなら···いいのか?。あー、でも、やっぱり···」
千絋は未だに言い倦ねる清乃を無視して、彼女の座る椅子をクルリと回すとニヤリと笑って言った。
「言質は取ったぞ」
真正面から捉えた千紘の顔は、震える子犬どころか、狡猾な狐のようだった。
赤ずきん清乃は、まんまとおばあさんに化けた狼犬千紘に騙され丸呑みされようとしていた。
「おい、たとえ作者本人でも狼犬《ウルハイ》の実力を貶すこたぁ許さねえぞ」
「はは、何キャラだよ」
清乃の軽めの脅しをさらりと躱した千紘には、先程までの卑屈な陰はどこにも見当たらなかった。
「だが、俺の絵のことを一番理解してくれている清乃が、ゲーム制作予定の会社に入社することになった。俺は清乃の人となりを近くで見られる千載一遇チャンスだと思って、この話に乗ったんだ」
ちょっと発言がストーカー地味ている気もしないでもないが、これだけ高評価してくれているのだから、と清乃は心に浮かぶ懸念をスルーすることにした。
「この仕事を受けるのはある種の賭けだった。結果的には、社長が俺にお前という最強のパートナーとやりがいを与えてくれたが、負ければ失うものも大きい」
いつの間にか最強のパートナーにまで格上げされている事実。
現状、清乃は自分が彼にとって、どのランクにまで登りつめていくのか見当もつかない。
ともあれ、エンターテイメントあるあるだが、どんなに前評判や宣伝効果が高くても、肝心の中身が伴わなければ衰退していくのは必然である。
特にゲーム分野は、次から次に新作が生まれ、斬新さや内容の面白さが伴わなければ飽きられるのも速い。
当たれば大きいが、受け入れられなければ大赤字を招くこともある。
だから、千紘がある種の賭けである、と言ったことは間違いではない。
幸い、滋子が今回手掛けたゲームは、乙女ゲームと銘打っているものの、冒険RPG要素もあり、アニメやスマホゲームとも連動することから先行予約数も跳ね上がり黒字が見込まれている。
そのため、今後も定期的にアップデートしたり、キャラクターグッズの販売促進など、予定は目白押しとなっている有り難い状況だ。
キャラデザイナー兼プロデューサーである千紘も、イラストレーター兼アニメーターである清乃も気の抜けない状況は今後も続いていくことだろう。
「とりあえずはやりきったと思う。だが、もう1つ大きな問題が残っているんだ」
バックハグを続ける千紘の表情は、振り向かなければわからない。
しかし、このあと続く言葉には嫌な予感しかしない。
「今度、当社の親会社である村瀬ITコーポレーションのパーティがあるのは知ってるよな?」
それは、ゲームの完成と、滋子の会社の創立2周年を祝うパーティだ。
勿論、清乃もその話は知っていたが、いちイラストレーターでしかない自分には縁のない話だと思って適当に聞いていたため詳細は知らない。
「親会社の反対意見を押し切ってゲーム業界に参入した社長と、メインプロデューサーの俺はおそらくそこではアウェイだ。だからこそ味方がほしい。清乃もパートナーとして俺と一緒に参加してくれないだろうか?」
文字通り、清乃がパーティ嫌いと知っての狼藉だろうが、雨に打たれた子犬のように項垂れる千絋は絵面的に反則だった。
リアルイケメンにもショタキャラにも需要のないはずの清乃だったが、弱った狼犬のしょんぼり絵面には弱いのだ、ということをここに来て知った。
「···私が力になれるとは到底思えませんが」
清乃は、権力の行使や見栄の張り合いが顕著となるこうしたパーティが嫌いだった。
滋子の会社に入社して2年、そのようなパーティに参加することは極力避けていたし、パーティに参加しないことを入社の条件にしたこともある。
「そばにいてくれるだけでいいんだ」
悲しそうに上目遣いをする狼犬に、パーティ嫌いを貫き通してきた清乃に眠っていた慈悲の心が揺さぶられる。
「立ってるだけなら···いいのか?。あー、でも、やっぱり···」
千絋は未だに言い倦ねる清乃を無視して、彼女の座る椅子をクルリと回すとニヤリと笑って言った。
「言質は取ったぞ」
真正面から捉えた千紘の顔は、震える子犬どころか、狡猾な狐のようだった。
赤ずきん清乃は、まんまとおばあさんに化けた狼犬千紘に騙され丸呑みされようとしていた。