轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「は、初めてだったのに···」

「偶然だな、俺もだよ」

朝チュンならぬ、今はまだ夜中。

事が終わり、ようやく我に返って、動揺はしているものの、清乃は決して寝ぼけてはいないはず···だ。

しかし、何か聞き間違えをしたような気が···。

千紘は今28歳。

草食系の男子が増えてきているとはいえ、これだけのイケメンで細マッチョ、才能ありのお金持ちである。  

彼自身を知れば、全世界の女性が放っておくわけはない、と清乃は抱かれている千紘の腕の中で首を傾げた。

「俺の家は母子家庭でね。少し特殊な家庭で育ったから女性が苦手だったんだ」

なるほど、やはり女性嫌いが高じて、牛乳瓶眼鏡陰キャが誕生したと···フムフム、と清乃は一連の疑問に終止符(まだ打ってない)が打たれるのを感じて頷いた。

この告白内容も、テンプレと言えなくもないが、そう言いきるには重たい話題なので口には出さない、決して。

「私は単に好きな人ができなかったのと、特段そっち方面に興味がなかったからというのが理由ですかね」

本当は性病が怖いというのが本音である。

「俺にとってそれは嬉しい誤算だよ。古い考えと言われるかもしれないが、愛する人には自分だけを愛してほしいと思う。たった一人の女性を誰かと共有するなんて俺には無理だ」

ギュッと清乃を抱きしめる千紘の表情は見えないが、きっと何らかの辛い想いを抱えているのだろうな、と推測するのは容易い。

「そんなところも狼さんみたいで素敵ですね。私も愛する人は一人でいい派ですよ?」

清乃がギュッと抱きしめ返すと、千紘が上方でニヤリと笑った気がした。

「それは俺がもっと愛情を示してもいいって意味だな?」

「えっ?ち、ちが···」

「安心しろ。俺はもっともっとお前を愛せる」

そう言った千紘に組み敷かれ、瞬く間に第2ラウンドへ持ち込まれたのは想像に難くはないだろう。

“あれ?ハウスキーパーで雇われて来たはずなのに、イラストを見に来ただけなのに、どうしてこうなった〜???”

あまりにわかりきった答えの出ている疑問に答えてくれる人などいない。

千紘の与える愛に翻弄され続ける清乃は、

“ムッツリ俺様イケメンの本能開花怖い···”

と、心の中で呟きながら、夢の世界へと旅立つのであった。

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