轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
あれから2日。

千紘に心ゆくまで堪能された清乃は、結果として、一切ハウスキーパーの仕事をすることはなかった。

元々雇われていたハウスキーパーとは春日のことで、春日は本来、滋子ではなく千紘付きの影武者···否、執事だったらしい。

この2日と半日、清乃は千紘に丁寧にケアされ、トイレもお風呂も抱っこで移動状態。

それ以外は寝室から一切出ることはなかったのだが、その間、春日は料理や掃除を行い、全てのハウスキーパー業務を完璧に仕上げて、清乃に気づかれぬまま通勤帰宅を繰り返していたのだという。

恐るべし、人斬り隠密春日。

そして、本日。

なんと、今夜がパーティの当日だった!

目の前に運ばれてきたドレスに、清乃は瞳孔を全開にしながら立ち尽くしていた。

「色は俺の瞳の色に合わせてライトブラウンにしたから」

「wow···」

それも滋子情報なのか、異世界テンプレをありがとう。

独占欲の表れである相手の色を纏う、ファンタジーあるある。

「ちぃちゃん、いくら私がテンプレ好きでも、それを他者アピールは不要だよ」

「いや、キヨノンが俺のものであるアピールは重要かつ重大な案件だ」

もちろん、千紘のスーツも清乃の瞳の色であるダークグレイとのこと。

余談であるが、清乃の虹彩の色は、珍しいがダークグレイである。

実際は、日本人といえども純粋な黒の虹彩を持つ者の方が珍しいらしいが、良くは知らない。

そんな独占欲あるある、を恥ずかしげもなく見せつける千紘だが、他にもいらぬ独占欲を見せつけてきていた。

そう、お気付きだろう、ちいちゃん、キヨノン呼びである。

流石に恥ずかしいため、二人のとき限定の呼び名にしてもらってはいるが、まだ人前に出ていないため、約束が果たされるかどうか、清乃は些か不安である。

そうこうしているうちに、何故か清乃以上に器用に化粧とヘアメイクを施す千紘に傅かれながら、

「綺麗だ。他の誰の目にも見せたくない」

そんな、テンプレセリフを真顔で受け取り、清乃は苦笑を浮かべた。

大嫌いなパーティだが、千紘のピンチらしいし、パートナー(番つがい)としては彼を一人にする訳にはいかない。

自分の預かり知らぬところで、千紘を馬鹿にされたり、色仕掛を仕掛けられたりするわけにはいかないのだ。

嫉妬をメラメラと湧き上がらせてしまうくらいには、清乃は千紘に絆されてしまっていた。
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