轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「本日は、IT テクノロジーグローイングの二周年記念パーティーに足をお運び頂き誠にありがとうございます」
会場のライトが落とされ、スポットライトに照らされた司会者が発した挨拶に、清乃はハッとなって、手にしていた料理の皿から目線を外した。
「うちの会社名···グローイングだったわ」
そう、滋子のユーザーネームもグロウ。
何故にこんなにあからさまなヒントに気づかなかったのか?と清乃は自分自身に呆れた。
何か、成長させたいとか言う意味なんだろうな、と適当に考えていたが、滋子とグロウを同一視していなかったために見落としていた。
「そこすら今更だったのか」
清乃の腰をグッと引き寄せて笑う千紘に対する、周囲の女性からの視線が痛い。
いつもの牛乳瓶眼鏡ではない千紘は、本日、あの敏腕陰キャプロデューサーとは認識されていない。
おそらく、招待された新人声優か何かと思われているのではないだろうか?
「千紘さんはあっち側に立たなくていいんですか?」
持っていた皿に載せられていたローストビーフを口に運ぶと、清乃は不思議そうに首を傾げた。
「ああ、行ったところであの陰キャ眼鏡は置いてきたから、今の俺がいつものプロデューサーと同一人物とは認識されないだろうからな。元々出不精だし知らない奴も多い」
挨拶の壇上に立つのは、滋子社長と、その友人である大手ゲーム会社の社長·渡瀬拓夢(わたせひろむ)のみ。
グローイングの表立った社員もそこには並んでいなかった。
渡瀬は、これまで手掛けてきた数々のゲームやアニメの経験を元に、滋子に助言を与えてきた彼女の大学時代の先輩。
全てを滋子の功績とするために、今の今まで黒子に徹して彼女を支えてきたはずだが、ここに来て敢えて表舞台に出てきているのには何か意味があるのだろうか?と清乃はローストビーフを呑み込みながら考えていた。
「渡瀬が気になるか?まあ、そのうちわかるだろう」
千紘の意味深な言葉に、清乃も多少は興味を唆られたが、実はどうでも良い。
パーティ嫌いの清乃は、綺麗なドレスも華やかな芸能人も、下世話な噂話にも興味はない。
今日は頼まれてこの場に同席しているだけである。
つつがなく役目を終えてこの場を去れれば無問題。
誰がこの場の主役だろうと、どんな爆弾を落とされようと構いはしないのだ。自分に影響しないのであれば。
壇上の前のスクリーンに映し出されているのは、グローイングの2年の軌跡と近日中に発売される戦国系乙女ゲームのブロモーション。
パーティには興味はないが、まだ完成形を見ていなかったゲームのプロモーションには清乃も目を奪われる。
千紘が生み出し、自分達イラストレーターやアニメーターが命を吹き込んだキャラクターが目の前で動いている。
魅力的な音楽と動画に載せて、キャラクターが画面の前の清乃に手を差し伸べる様は“推せる”の一言に尽きる。
食べる手を止めて、スクリーンをガン見する清乃の耳元に
「俺の描いたキャラクターとはいえ、俺以外の男に見惚れるなよ」
戦国武将も真っ青なリアルイケメンがイケボで囁く。
「ち、千紘さん、ここ、人目が」
「なら、人目がないところに移動すればいいのか?」
独占欲を隠そうとしないテンプレ俺様イケメンは、もしや限界突破しようとしているのか?
暗がりとはいえ、周囲の生暖かい視線を感じて、清乃は途方に暮れた。
会場のライトが落とされ、スポットライトに照らされた司会者が発した挨拶に、清乃はハッとなって、手にしていた料理の皿から目線を外した。
「うちの会社名···グローイングだったわ」
そう、滋子のユーザーネームもグロウ。
何故にこんなにあからさまなヒントに気づかなかったのか?と清乃は自分自身に呆れた。
何か、成長させたいとか言う意味なんだろうな、と適当に考えていたが、滋子とグロウを同一視していなかったために見落としていた。
「そこすら今更だったのか」
清乃の腰をグッと引き寄せて笑う千紘に対する、周囲の女性からの視線が痛い。
いつもの牛乳瓶眼鏡ではない千紘は、本日、あの敏腕陰キャプロデューサーとは認識されていない。
おそらく、招待された新人声優か何かと思われているのではないだろうか?
「千紘さんはあっち側に立たなくていいんですか?」
持っていた皿に載せられていたローストビーフを口に運ぶと、清乃は不思議そうに首を傾げた。
「ああ、行ったところであの陰キャ眼鏡は置いてきたから、今の俺がいつものプロデューサーと同一人物とは認識されないだろうからな。元々出不精だし知らない奴も多い」
挨拶の壇上に立つのは、滋子社長と、その友人である大手ゲーム会社の社長·渡瀬拓夢(わたせひろむ)のみ。
グローイングの表立った社員もそこには並んでいなかった。
渡瀬は、これまで手掛けてきた数々のゲームやアニメの経験を元に、滋子に助言を与えてきた彼女の大学時代の先輩。
全てを滋子の功績とするために、今の今まで黒子に徹して彼女を支えてきたはずだが、ここに来て敢えて表舞台に出てきているのには何か意味があるのだろうか?と清乃はローストビーフを呑み込みながら考えていた。
「渡瀬が気になるか?まあ、そのうちわかるだろう」
千紘の意味深な言葉に、清乃も多少は興味を唆られたが、実はどうでも良い。
パーティ嫌いの清乃は、綺麗なドレスも華やかな芸能人も、下世話な噂話にも興味はない。
今日は頼まれてこの場に同席しているだけである。
つつがなく役目を終えてこの場を去れれば無問題。
誰がこの場の主役だろうと、どんな爆弾を落とされようと構いはしないのだ。自分に影響しないのであれば。
壇上の前のスクリーンに映し出されているのは、グローイングの2年の軌跡と近日中に発売される戦国系乙女ゲームのブロモーション。
パーティには興味はないが、まだ完成形を見ていなかったゲームのプロモーションには清乃も目を奪われる。
千紘が生み出し、自分達イラストレーターやアニメーターが命を吹き込んだキャラクターが目の前で動いている。
魅力的な音楽と動画に載せて、キャラクターが画面の前の清乃に手を差し伸べる様は“推せる”の一言に尽きる。
食べる手を止めて、スクリーンをガン見する清乃の耳元に
「俺の描いたキャラクターとはいえ、俺以外の男に見惚れるなよ」
戦国武将も真っ青なリアルイケメンがイケボで囁く。
「ち、千紘さん、ここ、人目が」
「なら、人目がないところに移動すればいいのか?」
独占欲を隠そうとしないテンプレ俺様イケメンは、もしや限界突破しようとしているのか?
暗がりとはいえ、周囲の生暖かい視線を感じて、清乃は途方に暮れた。