轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「鷹司さま、まだパーティは序盤でございます。退室はご遠慮下さい」

後ろから聞こえてきた低音ボイスに驚いて清乃が振り向くと、いつの間にか現れた春日が立っていた。

「わかっている」

舞台では、滋子の挨拶に続いて、親会社·村瀬コーポレーションの社長である村瀬映二が乾杯の音頭をとろうとしているところだった。

隠密春日は、いつも千紘の補佐をしているが、いい意味で千紘の暴走を止めるストッパー役も兼ねているらしい。

それならなぜ、千紘のマンションでの暴走を止めてくれなかったのかとも思うが、閨の問題に関して、一秘書に乱入されるのも何なので、清乃は大人しく受け入れるしかないと諦めた。

「それでは、グローイングの今後の輝かしい未来を祝して、乾杯」

「「「乾杯!」」」

会場のどよめきに続いて、華やかなゲームのBGMが流れ始め、招待客達は一様に歓談を始めた。

細部にこだわったゲームである。

勿論、音楽にもこだわった経緯がある。

清乃は、その音楽が流れるシーンを一つ一つ思い出しながら、思わず同じ音を口ずさんでいた。

料理を確保してお腹に納めること数十分。

「相変わらず、色気より食い気ね」

と、清乃に馴染みの深い毒舌が耳をかすめた。

「滋子、お疲れ様」

「挨拶ばっかで疲れたわ。私の分も取っておいてくれたんでしょうね?」

「もちろん、ここに確保してるわよ。でも、主役がこんなところに居ていいの?」

「いいの、いいの。主要な人物はおさえたから。後は用があればあっちからくるでしょ」

ゲンナリした様子の滋子に、清乃は黙って赤ワインを差し出す。

「2周年おめでとう。ゲームもなんとか間に合ったし良かったね」

「ありがとう。全部、清乃と千紘さん、そして渡瀬先輩のおかげ」

微笑み合う滋子と清乃、千紘が、ワイングラスを合わせて音を鳴らしたその時である。

「こんなところに隠れて相変わらず自信がないのだな、千紘は」

傲慢さを隠しきれない滋子の父親兼親会社の社長である村瀬映二が、悪役よろしく綺麗なドレス姿の令嬢を携えて3人の前に登場した。

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