轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「母さんは出会った時、映二社長が既婚者だとは知らなかった。もちろん子供がいることも。結局は都合のいい現地妻扱いで、最初はほんの遊びのつもりだったらしい」
アンナがその事実に気づいたときには既に千紘を身籠っていた後だった。
知らなかったとはいえ、不倫をしてしまった事実にアンナは心を病んでしまった。
マタニティブルーと出産後の情緒不安定が重なって、アンナは育児放棄をしてしまう。
マンションに囲われて、ただ映二が訪れるのを待つ日々。
アンナは夢の世界に暮らすお人形のようになってしまった。
アンナを捨てきれない映二は、認知はしないものの、千紘をオランダの地に隔離し成人まで育てることを、村瀬家の家令をしていた春日夫妻に命じた。
芸術の国オランダ。
あらゆる芸術に触れることができる環境は、千紘の絵の才能を開花させた。
しかし、幼少期に日本人の家令夫婦に育てられた千紘は、オランダ語を上手く話せず、結果としてコミュニティにうまく馴染めず、美術館を見て回る程度の外出しかできなかったのである。
そんな中、日本人学校の小学部に入学した千紘。
学校の行き来以外は引き籠もりとなってしまっていた千紘は、家族仲が良く、明るく前向きな級友達には馴染めず、イラストを描いたり、日本のイラストコミュニケーションサービスにアクセスして心を癒やす日々を送っていた。
千紘の顔の良さに興味を惹かれ、近寄ってきては話しかけてくる生徒はいた。
しかし、相手は幸せな家庭で過ごす、ごく普通の生活を当たり前に手にしている常識人。
楽しげな話題に参加することもできない千紘はコミュ障を拗らせていく。
加えて、不倫を苦にして心を止んだ母を見てきたことにより、簡単に恋愛感情を抱くことは、お互いの不幸に繋がる、という千紘の思い込みが、コミュ障に拍車をかけていた。
千紘は、他人特に女性に対する警戒心を強く抱き、家令夫婦とその息子以外に心を開くことがてきなくなっていたのだ。
唯一、夢中になれるのはイラストや絵画、アニメといった二次元の世界。
それは暖かく、孤独な千紘に希望を与えてくれるものであった。
しかし、成長するにつれ、それだけでは、完全に千紘の寂しさを昇華することはできないことも自覚していた。
そうして千紘は、顔出ししなくても最低限のコミュニケーションをはかることができる、イラストコミュニケーションサービスに興味を持つようになった。
実際に顔を合わせて話すことなんて無理ゲーだが、ネットを介して話ぐらいはできるのではないだろうか?
そんな淡い期待から、初めて千紘がイラストを投稿した日。
それは彼が17歳になったある日のことだった。
学校の先生や、春日夫婦、その息子には『絵がとてもお上手です』と褒めてもらったことはある。
しかし、それはあくまでも身内間での評価。
アニメやイラストのクオリティの高い日本で、自分の絵がどこまで通用するのか、オランダにいる千紘には未知数であった。
ドキドキしながら自分の投稿したイラストにコメントが付くのを待つ。
そうして速攻リアクションを返してきてくれたのが、忘れもしない、ユーザーネームキヨノン。
初めてのフォロワー、キヨノンは、只々無条件に狼犬《ウルハイ》のイラストを褒め称えてくれた。
あまりに都合のよいリアクションに、はじめこそ疑心暗鬼になっていた千紘だったが、いつしかフレンドとなり、キヨノン自身のイラストや投稿記事を後追いしていくうちに、その率直で前向きな人となりに憧れを抱くようになった。
いつか、キヨノンの前に立ってもに恥じない人物になって会いに行きたい。
そんな思いが膨らみ、後ろ向きだった千紘が、訪日に向けて積極的に動き始めるのに、そう時間はかからなかった。
アンナがその事実に気づいたときには既に千紘を身籠っていた後だった。
知らなかったとはいえ、不倫をしてしまった事実にアンナは心を病んでしまった。
マタニティブルーと出産後の情緒不安定が重なって、アンナは育児放棄をしてしまう。
マンションに囲われて、ただ映二が訪れるのを待つ日々。
アンナは夢の世界に暮らすお人形のようになってしまった。
アンナを捨てきれない映二は、認知はしないものの、千紘をオランダの地に隔離し成人まで育てることを、村瀬家の家令をしていた春日夫妻に命じた。
芸術の国オランダ。
あらゆる芸術に触れることができる環境は、千紘の絵の才能を開花させた。
しかし、幼少期に日本人の家令夫婦に育てられた千紘は、オランダ語を上手く話せず、結果としてコミュニティにうまく馴染めず、美術館を見て回る程度の外出しかできなかったのである。
そんな中、日本人学校の小学部に入学した千紘。
学校の行き来以外は引き籠もりとなってしまっていた千紘は、家族仲が良く、明るく前向きな級友達には馴染めず、イラストを描いたり、日本のイラストコミュニケーションサービスにアクセスして心を癒やす日々を送っていた。
千紘の顔の良さに興味を惹かれ、近寄ってきては話しかけてくる生徒はいた。
しかし、相手は幸せな家庭で過ごす、ごく普通の生活を当たり前に手にしている常識人。
楽しげな話題に参加することもできない千紘はコミュ障を拗らせていく。
加えて、不倫を苦にして心を止んだ母を見てきたことにより、簡単に恋愛感情を抱くことは、お互いの不幸に繋がる、という千紘の思い込みが、コミュ障に拍車をかけていた。
千紘は、他人特に女性に対する警戒心を強く抱き、家令夫婦とその息子以外に心を開くことがてきなくなっていたのだ。
唯一、夢中になれるのはイラストや絵画、アニメといった二次元の世界。
それは暖かく、孤独な千紘に希望を与えてくれるものであった。
しかし、成長するにつれ、それだけでは、完全に千紘の寂しさを昇華することはできないことも自覚していた。
そうして千紘は、顔出ししなくても最低限のコミュニケーションをはかることができる、イラストコミュニケーションサービスに興味を持つようになった。
実際に顔を合わせて話すことなんて無理ゲーだが、ネットを介して話ぐらいはできるのではないだろうか?
そんな淡い期待から、初めて千紘がイラストを投稿した日。
それは彼が17歳になったある日のことだった。
学校の先生や、春日夫婦、その息子には『絵がとてもお上手です』と褒めてもらったことはある。
しかし、それはあくまでも身内間での評価。
アニメやイラストのクオリティの高い日本で、自分の絵がどこまで通用するのか、オランダにいる千紘には未知数であった。
ドキドキしながら自分の投稿したイラストにコメントが付くのを待つ。
そうして速攻リアクションを返してきてくれたのが、忘れもしない、ユーザーネームキヨノン。
初めてのフォロワー、キヨノンは、只々無条件に狼犬《ウルハイ》のイラストを褒め称えてくれた。
あまりに都合のよいリアクションに、はじめこそ疑心暗鬼になっていた千紘だったが、いつしかフレンドとなり、キヨノン自身のイラストや投稿記事を後追いしていくうちに、その率直で前向きな人となりに憧れを抱くようになった。
いつか、キヨノンの前に立ってもに恥じない人物になって会いに行きたい。
そんな思いが膨らみ、後ろ向きだった千紘が、訪日に向けて積極的に動き始めるのに、そう時間はかからなかった。