轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「だが、ネット上での犯罪は防止できたとしても、一番恐ろしいのは実力行使だ。最近の犯罪の傾向を見てもわかるように、集団に紛れて罪を犯したり、金を稼げるなら手段は問わない、といった輩がいないわけではないからな」

確かに、注目されたいからとか、愉快犯の模倣だとか、楽して金を儲けたいなどなど、そういった軽はずみな理由で犯罪を犯している人達も大勢いる。

「千紘もキヨノンも、ゲームの発売日イベントまでは決して一人にはなるな。まあ、春日と行動を共にしていれば大丈夫とは思うが」

拓夢は、片手で顎を擦りながら、真剣な顔で告げた。

おそらく仕掛けてくるなら、一番注目度の高い、ゲーム発売イベントの日だろうということ。

「春日さんの本業はサイバー攻撃予防と秘書業務でしょ?いくら眼力が人斬り···違った、顔が怖い···いや、迫力があるからって物理的な攻撃には弱いんじゃ···」

「春日はミッションインポッシブルのト厶・クルーズに憧れてこの世界に足を踏み入れたんだ。武芸の方ももちろん極めているから安心していいよ」

あの、黒ずくめの衣装はコスプレじゃなかったんかい!

という言葉を清乃は飲み込んだ。

「こうした暗部は春日だけではないよ。滋子もかつて、反村瀬派の組織から命を狙われたこともあり優秀な影をつけているんだ」

暗部とは?!
リアル影武者、何時代!?

ツッコミどころは満載だが、命の危険を避けるためには必要なく存在なのだろう。

極力、権力や財力に頼りたくない清乃だったが、命の危機に瀕しているのなら話は別だ。

だが、リアル影武者がいるのなら実家の力を借りなくても済みそうだ、とも思う。

清乃は人知れず安堵の息を吐いて、壁に貼られているゲームのポスターを見つめ未来を儚んだ。

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