轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
そうしているうちに、慌ただしくゲームの先行発売イベント当日がやってきた。

連日、会社および個人に向けられた嫌がらせのメールと投稿は続いていたが、春日のナイスブロックで事なきを得ていた。

悪意のある投稿者のみに、偽のホームページを用意して、思い切り書き込みをさせている。

それらをまとめて紐付けすることで、投稿は数百を数えたが、情報は外に漏れず、名誉毀損や信用毀損罪に問い得る証拠は積み上がっている。

投稿者は、全国に彼らの悪意が伝染していると思っていることだろう。

更に偽計業務妨害や威力業務妨害といった実刑に問うかは、彼らの今後の行動次第だが、ここで問題を起こされて、これから発売するゲームの輝かしい未来に傷をつけられるのは御免被りたい。

万全を期すために、イベント会場をお馴染みのあのホテル(滋子の母をオーナーとする)としていたのはラッキーだった。

ホームグラウンドであれば、事前の準備や警備も万端だ。

イベントが行われる予定の大ホールには、続々と関係者が集まってきている。

千紘も清乃も末席だが、今回のゲームの開発者としてイベントに参加する予定となっている。

ただし、グローイングのメンバーは、ネット攻撃をされている当事者というだけでなく、この後も何らか実害を被る可能性がある。

散り散りの場所にいるよりは、纏まっている方が安全性が高まる。

清乃は横に立つ千紘の腕をギュッと握ると、不安そうに彼の顔を見つめた。

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