轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「それでは、只今よりご来場の皆様にグローイングの新作ゲーム“戦国乙女のキラ勇姿〜イケメン戦は波乱の幕開け〜”の先行販売イベントを開催いたします」

始まりのアナウンスに、ワーッと会場から拍手が沸き起こる。

ノベルティをゲットしようと列に並ぶ人々、それらを配布する担当職員、マスコミ関係者などなど。

あっという間に、イベントホールは人混みでいっぱいになった。

なかでも、これまで顔出ししなかったキャラデザ担当の狼犬《ウルハイ》と、デフォルメキャラ担当のキヨノンがゲームのパッケージにサインをしてくれるというブースには人だかりができていた。

「なんだよ、こんなイケメンが狼犬《ウルハイ》なわけねーだろ?本物はもっと牛乳瓶眼鏡で陰キャなんだよ。お前、ゴーストライターならぬゴースト画家だろうが。ゲーム売ろうと思って偽物出してんじゃねえよ」

お行儀よく並ぶお客の中に、明らかにガラの悪い二人組が野次を飛ばし始めた。


大げさに怒鳴る様子はどこの大根役者か、といった雰囲気である。

明らかにイベントを妨害しようとする行為。

本気で喧嘩を売ろうとしているのなら、かなりのお馬鹿か、捨て身の金目当てだろう。

低レベルの妨害に、周囲の人物が眉間にしわを寄せて呆れた顔をしているというのに、

「そうよねえ、この会社、かなりネットでも叩かれてるし、低俗な人達しかいないらしいから、新作のゲームの質だってたかが知れてるわよ」

更なる追い打ちをかけてきたのは、派手な膝上ワンピを着た昭和風サングラスの女だった。

これは、絶対にあの人で間違いない。

変装のクオリティーが残念すぎて、清乃は怒りを通り越して、吹き出しそうになっていた。

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