轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「何を偉そうに。お前ごときが···」
「おやおや、娘の晴れ舞台にお呼ばれしてきてみれば、なんの騒ぎですかな?村瀬社長」
「あ、あなたは島崎取締役···」
そう、権力に対抗するために登場奉ったのは、万が一の時のために清乃が準備していた(もとい招待していた)、血筋だけで言えばリーサル・ウェポン、島崎建設代表取締役社長、兼、清乃の父親の島崎文彰(しまざきふみあき)である。
「な、なぜあなたがそのような格好でこんなところに···」
「なぜ?とは。私の普段着なんていつもこんなものだよ」
文彰の格好は、パーカーにジーンズ。推しのアメリカン・リーグのベースボールキャップを被り、斜めがけのリュックを背負う姿は、パッと見、ゲームを青田買いに来た青年のようにも見える。
彼ももちろん、勘違いお譲渡チンピラが茶々を入れ始めた時のサイン会の列に並んでいたサクラの一人だ。
「私は娘に散々布教されてきたせいか、随分前から狼犬《ウルハイ》のファンでね。もちろんキヨノンのガチ勢でもあるのだが、その二人がタッグを組んだゲームが出るとなれば、どんなに長時間並んだとしても即日ゲットしなければファンの名が廃るというものだろう」
文彰は全国を牛耳る建設会社のドンだが、普段の彼はゲームもすればアニメも見る。
大リーガが来るといえばスポーツ観戦チケットを並んで買いに行くし、新アトラクションができたと聞けば遊園地へ馳せ参じる。
子供を喜ばせるためには努力を惜しまない、そんな普通の父親といった一面も持つ魅力的な父親でもある。
「見た目や地位だけで人を判断したり、こうあるべきと決めつけることは何事においてもミスリードに繋がる。それがひいてはモラハラを生み、大事な人材と収益の損失に繋がる。私はそのような人間とは手を組まない方針なのだけどね」
今回の偽イベントには、スタッフの身内が多数紛れ込んでいた。
味方や目撃者は大いに越したことはない。
ホテルの従業員をはじめ、ゲームを購入する者、警備員、マスコミ全てが、グローイングが準備したサクラである。
「今回のことであなたの考えはよくわかった。人を人とも思わない人物との商談は危険を伴う。あなたの会社との今後のお付き合いは考えさせていただくよ。もちろん、東原建設のお嬢様、あなたのご実家もだ」
「な、我が社は島崎建設に対しては何もしていないではないか。それこそ威力業務妨害ではないのか」
「そうよ。このことをネットに書き込めば、あなたの島崎建設だって只では済まないわよ」
自分達のしてきたことは棚に上げて、都合のいいように相手のことを攻撃し続ける映二と志津香。
しかし、文彰のしようとしていることは決して犯罪ではない。
ただ、会社に利益をもたらさない取引先を整理しようというだけで、経営者としては正当で当然の判断なのだから。
ただし、ある程度の地位につく一部の人間だけが振りかざせる諸刃の剣というだけで。
「映二社長···お父様は黙っていて。これ以上無知を晒すことはこのホテルを営むお母様の恥にも繋がります。そして東原のお嬢様。あなたとは司法の場で気の済むまでお付き合いしますからご希望通りさっさとご退場願いましょうか」
かつて法の専門家であった滋子は容赦なく犯罪者を切り捨てる。
ぎゃあぎゃあと最後まで喚き続ける二人だったが、いつの間にか会場に戻ってきていた春日に連れ去られると、その場は再び静寂に包まれることになった。
「おやおや、娘の晴れ舞台にお呼ばれしてきてみれば、なんの騒ぎですかな?村瀬社長」
「あ、あなたは島崎取締役···」
そう、権力に対抗するために登場奉ったのは、万が一の時のために清乃が準備していた(もとい招待していた)、血筋だけで言えばリーサル・ウェポン、島崎建設代表取締役社長、兼、清乃の父親の島崎文彰(しまざきふみあき)である。
「な、なぜあなたがそのような格好でこんなところに···」
「なぜ?とは。私の普段着なんていつもこんなものだよ」
文彰の格好は、パーカーにジーンズ。推しのアメリカン・リーグのベースボールキャップを被り、斜めがけのリュックを背負う姿は、パッと見、ゲームを青田買いに来た青年のようにも見える。
彼ももちろん、勘違いお譲渡チンピラが茶々を入れ始めた時のサイン会の列に並んでいたサクラの一人だ。
「私は娘に散々布教されてきたせいか、随分前から狼犬《ウルハイ》のファンでね。もちろんキヨノンのガチ勢でもあるのだが、その二人がタッグを組んだゲームが出るとなれば、どんなに長時間並んだとしても即日ゲットしなければファンの名が廃るというものだろう」
文彰は全国を牛耳る建設会社のドンだが、普段の彼はゲームもすればアニメも見る。
大リーガが来るといえばスポーツ観戦チケットを並んで買いに行くし、新アトラクションができたと聞けば遊園地へ馳せ参じる。
子供を喜ばせるためには努力を惜しまない、そんな普通の父親といった一面も持つ魅力的な父親でもある。
「見た目や地位だけで人を判断したり、こうあるべきと決めつけることは何事においてもミスリードに繋がる。それがひいてはモラハラを生み、大事な人材と収益の損失に繋がる。私はそのような人間とは手を組まない方針なのだけどね」
今回の偽イベントには、スタッフの身内が多数紛れ込んでいた。
味方や目撃者は大いに越したことはない。
ホテルの従業員をはじめ、ゲームを購入する者、警備員、マスコミ全てが、グローイングが準備したサクラである。
「今回のことであなたの考えはよくわかった。人を人とも思わない人物との商談は危険を伴う。あなたの会社との今後のお付き合いは考えさせていただくよ。もちろん、東原建設のお嬢様、あなたのご実家もだ」
「な、我が社は島崎建設に対しては何もしていないではないか。それこそ威力業務妨害ではないのか」
「そうよ。このことをネットに書き込めば、あなたの島崎建設だって只では済まないわよ」
自分達のしてきたことは棚に上げて、都合のいいように相手のことを攻撃し続ける映二と志津香。
しかし、文彰のしようとしていることは決して犯罪ではない。
ただ、会社に利益をもたらさない取引先を整理しようというだけで、経営者としては正当で当然の判断なのだから。
ただし、ある程度の地位につく一部の人間だけが振りかざせる諸刃の剣というだけで。
「映二社長···お父様は黙っていて。これ以上無知を晒すことはこのホテルを営むお母様の恥にも繋がります。そして東原のお嬢様。あなたとは司法の場で気の済むまでお付き合いしますからご希望通りさっさとご退場願いましょうか」
かつて法の専門家であった滋子は容赦なく犯罪者を切り捨てる。
ぎゃあぎゃあと最後まで喚き続ける二人だったが、いつの間にか会場に戻ってきていた春日に連れ去られると、その場は再び静寂に包まれることになった。